12年を振り返って

私が子宮筋腫のUAEに着手したのが1998年10月でしたから今は13年目になります。この12年間を振り返ってみたいと思います。
1998年10月の第一例目は6人の医師がチームを組んで行いました。私が一番下っ端でした。1名はフランスでUAEの経験がありました。1名は選択的子宮動脈造影用カテーテルを自ら開発し100例以上の造影経験があり、悪性腫瘍に対する動注塞栓療法の経験がありました。私は子宮動脈に関しては数例の動注塞栓療法の経験しか持ち合わせていませんでした。あとの3名は婦人科医です。当時はUAEが将来どうなるかということに関してはまったく予測ができませんでした。つまりUAEをライフワークにしようとか研究しようなどとは考えていなかったのです。症例に関しても婦人科サイドが決めていました。 多数の筋腫の症例はだめ。大きすぎるのもだめ。 こういったものは手術するのが最適という考えでしたので、筋腫の個数も少なく、大きさも比較的小さいものがほとんどでした。
これがよかったのです。合併症などなくいつしか50-60例目になっていました。もちろん成績もよかった。
今でこそ学会で、どういった症例がUAEに適しているか、どういった症例は適応でないかが論じられていますが、当時はほとんどといっていいほど論じられることはありませんでした。

私にとってUAEの魅力は手技がsimpleであるということです。左右の子宮動脈にカテーテルを入れて塞栓物質を流し込む。これだけのことです。
大動脈内でループを形成し、1本のカテーテルで左右の子宮動脈に挿入する。いかにスピーディに操作を行うかを毎日イメージしていました。寝る前も毎日イメージしていました。
UAE経験が3-4年目になる頃はスピードを考えていました。つまりできるだけ短い透視時間でおこなう。最短何分でできるかを考えていました。そのころは透視時間3分台を連発していました。
3分を破ることは難しいだろうと思っていました。
ある時、ガイドワイヤーがするすると子宮動脈に入りました。そのままカテをかぶせて塞栓。反対側も容易に挿入でき塞栓。2.5分でした。
その後2.2分という時もありましたが2分の壁は絶対に無理だろうと思っていました。
でも毎日イメージしていかに無駄を省くかを自分勝手に考えていました。
私の最短透視時間は1.8分です。2分以内の透視時間でUAEを施行したのは3-4症例あったと思います。
説明をするのはちょっと難しいのですが、当時はきわめて“本能的”にUAEを行っていたように思います。診断学がscienceならば治療はart、特に外科手術はartの要素が大きい。artisticにUAEを行っていました。2分以内の透視時間でUAEが可能とわかった時点で、時間と戦うことはやめました。
artの部分は十分だ。scienceの部分を取り入れようと思ったのです。

UAE近況

先週は8症例のUAEを行いました。新横浜のアモルクリニックでもUAEを施行させていただいていますが、以前アモルクリニックでUAEを受けた方が、このたび出産したとの報告を受けました。通常の妊娠-出産だったとのことです。今週、来週と東京UAEセンターでは4症例が予定されています。外来の状況によってはさらに増えるかもしれません。
現在、年間おおよそ200症例弱のペースでUAEを行っているので来春頃には2000症例を突破すると思いますが、安全を第一に施行して行きたいと思っています。

UAE近況

東京UAEセンターでは先週、今週と立て続けに4症例を行い、半年あまりでUAE症例が50例を超えました。本日は外勤で午前午後あわせて5症例のIVR、1症例の診断カテを行いました。
全てのカテーテル検査・治療をいれるとこの2週間で16症例でした。毎日1度はカテーテルを握る計算になります。この程度行えば指先に感覚がうずくようになります。楽器の演奏でもそうですが、数日手を触れないでいると本調子になるまで時間がかかってしまいます。ゴルフなどのスポーツでも同じでしょう。
今年も残すところあと4週間となりましたが、12月はすでに8名のUAEが予定されています。実を言うとまだまだ余力があります(私にも病院にも)。過去の例を挙げると1施設のみで1ヶ月25名のUAEを行ったことがあります。
外来患者さんから「いつUAEができますか?」と尋ねられることがしばしばあります。「来週」と答えると、「え?そんなに早く?」 とか 「心の準備ができていない。」 といわれることもあります。
どうぞ、心の準備をしてから外来を受診ください。

市民講座

11月13日(土曜)の市民講座はおかげさまで盛況でした。子宮筋腫・子宮腺筋症に対する動脈塞栓術に関してわかりやすく解説したつもりでしたが、なにぶん限られた時間内で行わなくてはならず、至らなかった点もあったことと思います。
かなり専門的な質問もありましたが、なんとか回答したつもりでおります。
特に子宮腺筋症に関しては豊富なデータを持っているのですが、詳しく解説しているととても1時間や2時間では終わりません。
本日は午前中に3症例のUAEを行いました。フラットパネル搭載の最新型血管撮影装置はさずがによく見えます。しかもモニターを見ていても目が疲れない。透視時間はいずれも10分程度で、放射線被曝量は100~200mGでしたので、卵巣被曝は30%としても30~60mG,つまり3~6cGでこれはジョージタウン大学から発表された平均23cGを大幅に下回ります。
以前、当院で循環器科の先生がUAEの助手に入られたことがあったのですが、今日も部屋越しに見学されていました。モニターは血管造影室の外にもありますのでカテーテル操作や塞栓物質注入は見ることができるのです。
その循環器科の先生が腸骨動脈の動脈瘤のコイル塞栓術を行ったときは助手としてお手伝いさせていただきました。こうやって院内においても技術交流を行っていきレベルアップしていきたいと思います。最終的に患者さんの利益につながりますし、病院もレベルアップしていく。
こういった環境つくりにも尽力していきたいと思っています。
市民講座は次回も近日行う予定でいます。

UAE希望者

この5ヶ月間で恵仁会病院で40名以上の患者さんにUAEを行いました。外来受診の時点ですでに筋腫もしくは腺筋症と診断されている方がほとんどです。

実際外来受診患者さんの3-4割がUAE適応になっています。つまり6割の患者さんはUAE適応にしていません。理由は

1.UAEを行うには大きすぎる
2.挙児希望で核出術の方が妊娠・出産に有利
3.あえてUAEを行わなくても投薬等で閉経に持ち込める

等です。

私は腹腔鏡下筋腫核出術、子宮鏡下筋腫核出術、腺筋症核出術の適応があると思われた患者さんには、その手術の上手な先生を紹介しています。もちろん紹介状も書いています。当たり前のことですが。

ところで、現在UAEに保険適応がなく、充分普及していないため患者さんは子宮全摘を薦められてからネット等で検索してUAEを考慮するのが実際だと思います。

将来は、子宮全摘を希望しないからUAEを希望するのではなくて、UAEの適応がないために子宮全摘を考慮するという時代になるかもしれません。

UAE 公開講座のお知らせ

平成22年11月13日(土曜)に公開講座を行います。子宮筋腫、子宮腺筋症の最新治療であるUAEに関してわかりやすく説明します。いかなる質問にも回答いたします。

子宮動脈塞栓術の大きな利点

子宮動脈塞栓術の利点に、おなかを切らない、子宮が温存される、短期間で社会復帰できる、、などいろいろありますが、最も大きな利点の一つが、癒着を作りにくいということです。
もちろん絶対に作らないとはいえませんが、その頻度はきわめて少ないと考えられます。

開腹手術の場合は必ずといっていいほど腸に癒着ができます。また本来腹腔は空気に触れていませんが、開腹手術をすれば空気に触れます。空気に触れたことがなかった臓器が空気に触れるということは生理的なことではありません。

以前私は腸閉塞(イレウスといいます。)の患者さんの腸の造影をしたことがあります。その患者さんは過去に一度だけ開腹手術をしたことがありました。子宮筋腫のため子宮全摘をした患者さんでした。もっとも当時はUAEどころか腹腔鏡手術も普及していない時代でした。

開腹手術による腸の癒着が原因となりイレウスを起こすことがあるのは医学の常識です。おなかはどうしてもあけなくてはならない場合を除いては極力開けないほうがいいのです。

もちろん子宮動脈塞栓術の後の癒着は0とはいいません。

私は12年間、1850名以上の患者さんにUAEを行ってきましたが、そのあとでイレウスを起こした患者さんはいません。もちろん将来も絶対に起きないという保障はありません。

府中恵仁会病院の血管カテーテル室

子宮筋腫・子宮腺筋症に対する治療にはいくつかの方法がありますが、放射線被曝があるのはUAEだけです。 簡単に言えばこれはデメリットになります。

特に卵巣への被曝は問題になることがあります。なぜなら卵巣は放射線感受性が高い臓器で、たくさん被曝すると機能低下してしまうからです。

こう聞くとなにか恐怖心が起きてしまいそうですが、よく理解すれば怖がることはありません。

以前このブログで米国ジョージタウン大学でのUAEの平均卵巣被曝が23cGであると書きました。
cはセンチですからm(ミリ)にすると230mG (Gはグレイ:吸収線量を表す単位)になります。

230mG程度の被曝であれば卵巣機能はもとより、発がん性や、遺伝的な影響は考えなくても良いとされています。

府中恵仁会病院の血管造影装置は被曝線量をリアルタイムに表示するのです。もちろんこの表示された線量は卵巣にかかった被曝線量ではありません。 表示された線量の10-30%程度が卵巣被曝になると考えられています。 

また治療時にはパルス透視といって、ずっと放射線が出ているのでなく、パルス状に断続的に放射線を出す方法をとり被曝軽減を図り、さらに絞りを使用し、卵巣付近には当てないようにしています。

塞栓物質を注入している時は、カテーテル先端だけの透視でもいいので絞りを最大活用し透視部位を極端に狭くします。

9分程度の透視時間でUAEを終えた患者さんがいました。 血管造影装置に表示された被曝線量は180mGでした。その10-30%が卵巣被曝とすれば18mG-54mGということになります。

c(センチ)に直すと1.8cG-5.4cGとなりジョージタウン大学から発表された平均23cGを大幅に下回ることになります。 もっとも患者さんの体格によって線量は変わりますからある程度の誤差はありますが、まず被曝を心配する必要はありません。

いつか症例を蓄積してフラットパネル搭載の最新型血管造影装置によるUAE時の被曝線量に関して学会発表をしようかと考えています。

ちょっと自慢ですが、府中恵仁会病院のカテーテル室はテレビドラマのロケでも使用されるぐらい立派です。もちろん血管造影装置もフラットパネル搭載の最新式です。フラットパネルにより従来の血管造影装置の1/2~1/3の被曝線量で明瞭な画像ができます。

私は恵仁会病院の血管カテーテル室、血管造影装置を一目見ただけで、最高レベルのUAE手技ができると確信しました。(これが赴任することになった理由の一つでもあります。)

もう一つ自慢があります。 UAE手技のスタッフは私以外は全員女性です。 診療放射線技師も女性です。有能な放射線技師は患者さんの卵巣に被曝しないように絞りを最大限に活用してくれます。女性だからこそわかるのかもしれません。

でも被曝が少ないということは術者やスタッフも助かります。(私たちも被曝するのですから。)

タイトルをクリックすると血管カテーテル室を(ちょっとですが)見る事ができます。

外科医 須磨久善

9月5日(日)に外科医 須磨久善というテレビドラマが放送されます。

私は2003年1月から2010年4月まで葉山ハートセンターでUAEを行っていました。
2003年に葉山ハートセンターに入職した当時の病院長が須磨久善先生でした。
婦人科領域のUAEがなぜ心臓専門病院で行えたかというと血管カテーテルという血管からのアプローチで治療するという共通性があったからです。

須磨先生は心臓外科医で私は放射線科医ですから直接指導してもらったことはありません。でも同じ病院で日頃顔を合わせるわけですから仕事内容はお互いに伝わってきました。直接指導を受けたことはありませんから、師匠とは呼べませんが、治療後は患者さんの笑顔がなくてはならないということを教えてくださった点からは恩師と呼べます。

忘れられないのは葉山ハートセンター入職早々にある会議での須磨先生の発言です。

「鳴り物入りでやってくる医師は数多く見た。実際に2-3ヶ月すれば本物かどうかはすぐわかる。」

当時私はUAEの症例では日本で有数の症例数を持っていましたから、いわゆる「鳴り物」だったのかもしれません。早い話、へたくそだったらすぐにお払い箱になるという意味でした。でも今までやってきたとおりにやればなんとかなると信じていました。

葉山ハートセンターで働き始めてしばらくたってのことです。

あるおすし屋さんでカウンターにすわっていました。雑談しているうちにおすし屋のご主人が「先生。どこの病院?」と聞いてきました。私は「葉山のハートセンター」と答えたら、たまたまそばに座っていたお客さんが「先生。葉山なの?」といい、おもむろに胸をはだけ、

「これ、須磨先生に手術してもらったんだ!」

と言ったのです。胸には真一文字に手術の痕がありました。

さて当初はUAE症例だけでしたが、他の血管内治療もできるということがまわりの先生方にわかっていただけたせいか、多くはありませんが、腸骨動脈等、末梢血管の形成術にも参加させていただくことができました。またカテーテルアブレーションという不整脈治療も見学させていただきました。その斬新な画期的治療には目を見張ったものです。

UAE症例は順調に増え、7年余りで840症例ほどをさせていただくことができました。

須磨先生はさらなる発展を求めて東京にある病院に行かれましたが、今でも時折患者さんを紹介してくださります。紹介状をみるときはうれしさと同時に身が引き締まります。なぜなら患者さんを満足させると同時に紹介してくださった先生も納得させなくてはならないからです。

もちろん紹介状のあるなしで治療の質が変わることはありません。

テレビドラマ外科医-須磨久善を楽しみにしています。

外国の論文

Effect of Uterine Artery Embolization on Uterine and Leiomyoma Perfusion: Evidence of Transient Myometrial Ischemia on Magnetic Resonance Imaging

UAE後の血流をMRIで評価したという主旨の論文です。2010年4月にJVIR(Journal of Vascular and Interventional Radiology)という雑誌に発表されています。ドイツ発。

UAE直後は子宮全体に血流はないが、48-72時間以内に正常子宮部分の血流が回復し、梗塞になった筋腫は回復しないということです。観察期間は平均5ヶ月。

これを読んで、(抄録だけです全文は読んでいません)いささか驚いたというかやっぱりと思ったのは、
Ten patients had complete infarction of all leiomyomas; five presented with 11 partially perfused leiomyomas.


の部分で、15症例中すべての筋腫核が完全梗塞となったのが10例、5症例11の筋腫核が部分塞栓であったという文です。
 
つまり完全梗塞率は10/15=66.7%ということになります。
 
塞栓物質はtris-acryl gelatin microspheres という物質で日本では流通していません。
 
日本で行われているUAEの塞栓物質はゼラチンスポンジですが、おそらくどこの施設でも完全梗塞率は80%前後かそれ以上だと思います。
 
使用されたtris-acryl gelatin microspheres のサイズはわかりませんが、率直に言って、日本のUAEの方が成績が良い。欧米でUAE後5年で20%が再発というのはこの完全梗塞率の低さからも理解できます。
 
抄録はタイトルをクリックすると読めます。

UAE以外のIVR

府中恵仁会病院ではUAE以外のIVRも手がけています。 心臓血管系は心臓血管病センターで、脳血管は脳卒中センターで行っています。

今週は2例のUAEと1例の消化管出血に対する塞栓術を行いました。

消化管出血の患者さんは十二指腸の憩室からの出血で、内視鏡でおおよその止血はできましたが、十二指腸のより奥の部位からの出血に対する止血が困難で、血管からのアプローチによって止血しました。十二指腸アーケードと呼ばれる部分からの出血のため、まず腹腔動脈側から胃十二指腸動脈経由で上膵十二指腸動脈へカテーテルを進めコイルを留置しました。
出血部は下膵十二指腸側からも血流を受けるので、引き続き、上腸間膜動脈から空腸動脈第1枝
(J1と呼びます)へカテーテルを進め、下膵十二指腸動脈、さらに膵アーケードまでカテーテルを進めコイルを留置しました。

UAEの場合もそうですが、今回の消化管出血で膵アーケードまでの選択的なカテーテル挿入はマイクロカテーテルといわれる非常に細いカテーテルを使用してこそ可能になっており、さらにそのマイクロカテーテルのためのガイドワイヤー(マイクロガイドワイヤー:微細血管用ガイドワイヤー)を使用してこそ可能です。

ガイドワイヤーが到達すれば、カテーテルもそれに追従して挿入されると思われがちですが、必ずしもそうではありません。力学的、物理的な力のかかる方向、ガイドワイヤーとカテーテルの摩擦係数などが複雑に絡み合っているのです。

ガイドワイヤーとカテーテルの摩擦にも2種類あって、一つは静止摩擦、もう一つは動摩擦です。
ガイドワイヤーが目的の部位まで挿入されているのにカテーテルがそこまでいかない、カテーテルが動かないというのはカテーテルが進む方向への力が最大静止摩擦力を超えないからです。

こういうときには、カテーテルを押さないで、ガイドワイヤーを引き戻します。 ガイドワイヤーを引き戻しながらカテーテルを押します。つまり最大静止摩擦力を超える力をガイドワイヤーを引き戻すことによって作り、動摩擦の状態にします。そうするとカテーテルがするすると目的の部位に進んでいきます。 この操作を繰り返すことにより目的の部位までカテーテルを誘導させることが可能です。

こういったことは理屈でわかっていても体得するのは時間がかかります。

来週は2例のUAE、1例の肝動脈塞栓術が予定されています。

府中恵仁会病院でのUAE近況

府中恵仁会病院に東京UAEセンターを設立させていただきちょうど丸3ヶ月が経過しました。

府中恵仁会病院だけでこの3ヶ月間にのべ30名の患者さんにUAEをさせていただきました。
初診からUAE手技、入院管理、経過観察と一貫して私が行っております。もちろん婦人科鈴木先生の強力なバックアップの元です。

何かあったら婦人科が面倒みてくれるからいいやという気持ちではいけません。

婦人科に面倒見てもらわないように適応を厳格にし、副作用、合併症なく、治療効果を上げるようにしなくてはなりません。

子宮筋腫に対するUAE

子宮筋腫に対するUAEは1998年10月でした。 それまでは子宮ガンで出血が止まらない症例に対して行ったことはありました。進行したガンだったためガンの治療のためのUAEというより出血を軽減することが目的でした。
子宮筋腫に対するUAEは目的が違ってきます。 筋腫による症状(過多月経、月経痛、圧迫症状)を緩和することが目的です。 仮に緩和が半年程度であれば有効とはいえません。
最低でも3-5年は症状が緩和されていなくてはと考えます。
というのはリュープリンの注射1クールだけでおおよそ1年ほどは症状緩和が可能だからです。
3クール行えば3年ほどは症状緩和が期待できるのです。

UAEに関してはアメリカやフランスのデータでは3年でほぼ85%、5年で80%ほどが症状コントロールされているようです。

なんとなく良さそう思ってしまいますが、私は成績が悪いと思っています。

5年で20%が再発するということです。

あるクリニックだけで年間100症例ほどUAEを行いますが、5年で20%が再発するのなら5年以降毎年20人づつ再発するということになりますから10年やっていれば累積で100人が再発するということになります。

そのクリニックの院長先生と再発率に関して話しましたが「5年で20%も再発していたらやってられませんよ。せいぜい数%といったところですよ。」とおっしゃてくださいました。
ちょっとほっとしました。

UAEの透視時間

透視時間は大切です。 なぜなら透視により被曝するからです。 UAEは骨盤部を透視しながら行う手技なので当然卵巣に被曝します。

専門的になりますが、一時的不妊になる被ばく線量、永久的不妊になる被曝線量は数値で示されています。

私は患者さんにおよそ10分程度の透視時間だし、心配するほどの被曝はありませんよ。と説明しています。

ではUAEの際、どのくらいの透視時間がかかるのでしょう。 アメリカのジョージタウン大学の研究では平均23分程度の透視時間であったと発表されています。

私は最初の1例目からずっと透視時間は記載しているのです。最初の1例目は私は助手でした。最初のうちは私は助手でしたが、7-8例目あたりから私が術者になり、10例目あたりからは手技を行うのは私だけになったのです。1998年の事です。

さて最初の1例目から106例目までの透視時間をグラフにしてみると面白いことがわかりました。

最初の20例のうち透視時間が10分以内だったのは4例ありました。 内1例は第2例目の患者さんでしたから正確に言うと私の手技ではありません。残りの3例はいずれも私の手技によるものでした。いずれも7-8分でした。

第1例目から106例目までのUAEにかかった透視時間は最短3.3分、最長45.2分で平均11.5分でした。

グラフをみてわかったことは数をこなせば早くなるのではなく、数をこなすことにより時間がかかる症例が少なくなると言うことでした。

最初の50症例のうち10分以内の透視時間で終えたのは25例ありました。

つまり最初から私はUAEを短時間に終えていたのでした。

UAE、IVR、血管造影

今までに行った血管造影、IVR、UAEの症例数を集計する機会がありました。
10年ほど勤務した病院で約2500症例でした(UAEを除く)。UAEは約1850例でした。それ以外に心臓カテーテル(心臓カテーテルを行っていた時代が私にもあるのです。)、他院でのIVRを含めると約4500症例でした。研修医時代の症例は含めていません。

この4500症例という数が多いのか少ないのかはわかりません。

以前勤務していた葉山ハートセンターでは循環器医師によって心臓カテーテルだけで年間1000例以上行われていました。循環器医師は2名もしくは3名でしたから一人当たり330例以上は行っていることになりますね。10年のキャリアがあれば3300例、20年ならば6600例ということになりますから単純に比較すれば私など20年で4500例ですからひよっこ、いやスズメ医者ですね。

ここ数年は年間200例のペースでUAEを行っていますから来年中には2000例を突破すると思いますが、2000例を突破すればまた違った世界が見えてくるような気がします。またUAEは多い年でも年間270-280例でしたから、年間300例を超えるようになればまた違った世界が見えてくる気がします。

そうすれば

「200例に1例ほどとても子宮動脈にカテーテルを挿入するのが難しい場合があるんです。」

「子宮動脈が片側で2本ある人がいます。」

「子宮動脈が片側欠損している人がいます。」

「両側の卵巣動脈を塞栓せざるを得ない場合もあるのです。」

「塞栓効果は塞栓物質だけでなく造影剤の粘稠度や浸透圧にも左右されますよ。(それよりも一番大切なのは塞栓のさじかげんです。)」

「、、、、だったので手技に時間がかかってしまったのです。」

と患者さんに説明しても説得力がでてきますね。

経験したUAE症例数

1998年10月からUAEを行っています。 経験した症例数は1800例を超えたようです。
正確な数字はわかりません。というのは招聘されて複数の病院でUAEを施行した数をはっきりと覚えていないからです。
来年までには2000症例を行うつもりでがんばっていきます。
来週は6例、再来週は7例がすでに予定されています。
今後、日本においてUAE症例、UAEの良い適応となる症例は増加していくと思います。
なぜかというと、ある理由があるからです。でもまだ確信がもてません。
そのうちにその理由をここに書きたいと思います。

日々是UAE

今週は5症例のUAE、来週は月、火で5症例、来週週末に1症例を大阪の病院に招聘されて行う予定です。 特別困難でなければ透視時間は10分以内、カテーテル挿入から抜去まで20分以内で終了させます。

UAEは21世紀の子宮筋腫治療の大きな柱となると考えています。

なぜ、こう言えるのかというと、歴史を考えればわかります。

子宮筋腫に対するUAEが発表されたのは1995年でフランス発でした。日本で最初に行われたのが1997年です。
1995年に発表されたと言うことは少なくともその数年前には実施されたわけで、日本はフランス、アメリカから5年ほど遅れているといえます。
逆に言えば、フランス、アメリカは日本より5年ほど先んじており、そのフランス、アメリカでUAEはすでに標準的治療になっているからです。

後5年すれば日本でもUAEが標準的治療になるとは断言しませんが現在よりは認知されると思います。

両側卵巣動脈塞栓の経験

子宮動脈塞栓術の際に、卵巣動脈も塞栓する場合があるとこのブログで書いたことがあります。

通常は片側だけの卵巣動脈塞栓にとどめるのですが、左右の卵巣動脈を塞栓した経験があります。いつか発表しようと思いますと書いた覚えがあります。
http://uae-ivr.blogspot.com/2010/03/blog-post.html

7月10日に発表する予定となりました。

第5回日本IVR学会関東地方会 
http://www.jsivr-kanto.jp/pdf/5th_program.pdf

【子宮筋腫に対し両側卵巣動脈塞栓を施行した1症例】


子宮筋腫に対する動脈塞栓術では数%にて卵巣動脈付加塞栓を施行する場合があるといわれているが、通常片側卵巣動脈塞栓のみで、両側の卵巣動脈塞栓を施行したという報告は見当たらない。

今回両側卵巣動脈塞栓を施行した子宮筋腫症例を経験したので報告する。

症例は40歳。1G1P。主訴は過多月経、貧血。他院にてGnRHaを施行されている。MRIにて筋腫は筋層内で径105*99*93mm、一部粘膜面に接していた。血管造影では左右の子宮動脈は細く、両側の卵巣動脈が発達していた。術者の判断にて右子宮動脈、両側卵巣動脈をポンピング法で作成したgelfoamにて塞栓した。筋腫の主たる栄養血管である右卵巣動脈は確実に塞栓した。手技に要した透視時間は16.8分であった。UAE後、筋腫の一部がviableとなったが、縮小は良好で過多月経、貧血は改善された。UAE後2年を経過した時点で月経周期に変化なくFSHの上昇も認められなかった。


東京UAEセンター  Tokyo UAE Center

きらない子宮筋腫・子宮腺筋症治療のホームページの英語バージョンができましたのでリンクしておきます。

タイトルをクリックすると移動します。

実はまだ完成していません。

少しずつ作っていこうと思います。

技(わざ)は盗むものか?

いいえ、ちがいます。

よく、調理人の修行時代に『技は盗むものであって、鍋の片隅に残ったソースをなめてみて研究したものだ。』、などというエピソードがありがちです。
とかく技ともなると徒弟制度やら上下関係やらで一人前になるまで血と汗の涙ぐましい努力が語られがちです。
『技は教えてもらうものではない。師匠から盗むものだ。』
という声があることは否定しません。

幸い、私はこのような環境とは無縁で、実に合理的にUAEを含む、IVR、血管撮影技術を習得しました。
合理的に、患者さんに最小限の侵襲でもちろん短時間に手技を終了させることを学びました。
もちろんカテーテル治療を専門とする放射科医の指導もありましたが、(それが大きな比重を占めていることはもちろんです。)外科、内科、婦人科医との日頃のコンタクトが無視できないほど大きかったといえます。

たとえば動注リザーバーの植え込み術は皮膚を切開し、ポートを皮下に固定します。小さな外科手術です。切るからには出血があるのですが、どうすれば出血が少なくてすむか、どうすればポートを固定できるか、皮下の剥離をどのようにすればいいのかなどは外科医から学びました。

カテーテルには押す、引く、右に回す、左に回す、とこの組み合わせしかありません。(ガイドワイヤーも同じです。)
ガイドワイヤーは金属でできているのでカテーテルから出る瞬間は針のように突き通す力があります。どうやってガイドワイヤーを安全にカテーテルから出せばいいのでしょうか?

ガイドワイヤーをカテーテルから出さないで、ガイドワイヤーを固定したままカテーテルを引き戻せばいいのです。そうすればガイドワイヤーはカテーテルから出ますね。

こんなことは基本中の基本です。

何度挿入を試みても目的とする血管に入らないのは腕が悪いのではなくてカテーテル(もしくはガイドワイヤー)の形状が合わないのです。 人間は面白いもので入らなければ何とか入れようとして時間を浪費します。撤退することがなかなかできないものなのです。カテーテル(もしくはガイドワイヤー)の形状が合わないならいくらやっても入りませんのでカテーテルやガイドワイヤーを交換するとか形状を変えるとかしないといけません。

穿刺もそうです。 大腿動脈を針で穿刺する。ところが血管に当たらない。 おかしい?と思ってもう一度穿刺する。 やっぱり当たらない。 首をかしげる。 もう一度、、。

何度やっても血管には当たりません。 穿刺した場所には血管が走っていないからです。
穿刺する部位を変えるか穿刺の角度を変えるかしないと血管には当たりません。
採血も同じです。

最近はライブ中継といって心臓カテーテルのライブが行われています。 もちろん心臓の血管内の操作がメインだと思います。

でも私は名人といわれる術者の“穿刺”を見てみたいです。

案外“穿刺”の場面は省略されているかもしれません。

指導医は技をなす基本をしっかりと伝えなくてはいけませんね。

鍋についたソースの作り方の素材の配合は教えてあげればいいのです。 

UAEライブ

ネットが発達したおかげで今までは決してみることができなかった手術や医療技術を見ることができるようになりました。
特に放射線科の分野はモニターを利用するので画像を転送と言う手段によって配信できます。
2003年、葉山ハートセンター時代に科学医療フロンティアという番組を作成しました。
サイエンスチャンネルというところからの依頼でした。
UAEのライブが収録されています。
私はありのままを映すように頼みました。それから穿刺の部分も映すようにと。
実はこの穿刺が意外と難しいのです。心理的なプレッシャーがあるのです。
穿刺が成功したら手技の半分は終わったと思って差し支えありません。

UAE後の感染と筋腫排泄

UAEで一番嫌なのは感染です。 感染する可能性が1-2%ありますよ。と患者さんに説明するとやっぱり心配するでしょう。
でも多数の経験から感染する場合とそうでない場合がはっきりとわかってきました。

粘膜下筋腫、もしくは粘膜にちょっと顔を出している筋層内筋腫が感染する場合があります。
逆に言えばしょう膜下筋腫、粘膜面に顔を出していない筋層内筋腫は感染しません。

というのは、そもそも子宮粘膜というところは外陰部と交通があるので細菌がいるのです。
粘膜下筋腫、粘膜面に顔を出している筋層内のUAEは無菌的操作でないということになります。
小さな粘膜下筋腫、たとえば径3-4cmの粘膜下筋腫ならば感染症状なしに排泄されることが多いのです。粘膜面に顔を出していても径6cmまでなら排泄されて感染症状はきたさないことがわかってきました。

要するに、筋腫が粘膜面に顔を出しているか否か。 顔を出している筋腫は何センチあるのか。
UAE前のMRIでここを見極めます。

それから患者さんが分娩の経験があるかどうかです。 子供を産んでいると子宮口が開きやすいので筋腫もつっかかえることなく排泄されます。

つっかかえるとことをsloughingと呼んでいます。sloughingをきたすと子宮につっぺができて内部で細菌が繁殖してしまいます。sloughingを来たさなければドレナージされて細菌は子宮の外に流されるので感染を来たしません。

6cm以下なら子供を産んでいようがいまいがsloughingをきたしません。
子供を産んでいる人、つまり経産婦であれば10cmまでが安全圏です。

でも超音波だけでの判断は禁物です。 超音波で12cmあると言われてもMRIで正確に計測すれば10cmだったと言うこともあるのです。また超音波で9cmといわれてもMRIでは10cmを超えていることもあります。

超音波とMRIのどちらが正確なのでしょうか?

もちろんMRIです。

ところで筋腫の排泄には大きく分けて3つの排泄形式があることがわかってきました。

UAE後の痛み

UAE直後から、虚血による強い疼痛が出現します。 この強い疼痛をうまくコントロールする秘訣は
痛みが出る前に強力な鎮痛を行うことなのです。 強い疼痛は通常6-7時間続きます。 そのためこの時間帯は強力な鎮痛を行います。その後、疼痛は弱まり翌日にはちょっと強めの生理痛程度になります。 48時間たてば軽い痛みとか引きつる程度までになります。

でも塞栓された筋腫には炎症が起きています。 この炎症が治まるのがおおよそ1週間です。

実はこの炎症に振動はあまりよくありません。 車の振動、電車の振動で痛みがぶり返すことがあります。 このときは座薬を使用して静かに横になっていれば痛みは治まります。

UAE近況

本日は午前中に無事3症例のUAEを施行しました。いずれも透視時間は10分以内でした。
患者さんは皆40代の方でしたが、卵巣への被曝には注意を払わなくてはいけません。
血管撮影装置も最新の機種で、目の前のモニターに透視時間、被曝線量がリアルタイムで表示されます。一昔前の機種とは格段の差がありますね。手術台の高さや位置、透視の角度など自ら操作をしています。
スタッフも治療の流れに慣れてきたようでとてもてきぱきとやってくれます。
UAE後の痛みのコントロールも病棟スタッフが慣れてきたようで今日の患者さんはどなたもほとんど痛みを訴えないくらいでした。UAEを行った日は万が一の時に備えて病院当直をしています。
病棟のチェックがひと段落したら読影業務です。

UAE近況

府中恵仁会病院に赴任して3週間ですが、7症例のUAEを施行することができました。アモルクリニックも7症例行いましたので5月は14症例でした。府中恵仁会病院ではどの患者さんもUAE後48時間で元気に退院されました。塞栓効果の判定(造影MRIで行います。)はUAE後1ヶ月です。
明日も3症例を行います。

日本IVR学会総会

明日から日本IVR学会総会です。今回は

【子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジ使用によるUAE】

という演題名で口演します。

【目的】ポンピング法にて作成したゼラチンスポンジを塞栓物質とした子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検討。


【方法】2003年から2009年まで当院にてUAEが施行された子宮腺筋症82例のうち筋腫合併を除く37症例を対象。塞栓物質は充分にポンピングしたgelformのみ。塞栓の程度はDSA上子宮動脈水平枝が描出されなくなるまでとした。UAE施行時の年齢は29-52歳(平均42.9歳)、経過観察期間1-71ヶ月(平均20.8ヶ月)。UAE前後のMRI画像、臨床症状、FSH、CA125を検討。

【成績】両側子宮動脈塞栓36例、両側および右卵巣動脈付加塞栓1例であった。

全例でUAE後48時間以内の退院が可能であった。

UAE後1ヶ月の造影MRIにて腺筋症病変の梗塞領域を検討したところ、完全梗塞23例(62.2%)、50-99%梗塞9例(24.3%)、50%未満梗塞5例(13.5%)であった。全例でUAE後から月経痛、過多月経等の臨床症状は改善されたが経過観察中5例で症状再燃が認められ、症状再燃までの期間は3-36ヶ月(平均15.6ヶ月)であった。再治療が4例(ATH:1例、GnRHa:3例)に施行された。UAE後の無月経は6例(一過性:2例、閉経:3例、子宮性:1例)でUAE施行時年齢はいずれも45歳以上であった。CA125の低下は梗塞領域とよく相関した。

【結論】ポンピング法ゼラチンスポンジによるUAEは子宮腺筋症に対して有用で安全な方法と思われた。

以上が抄録です。
 
何が言いたかったかというと、子宮腺筋症は子宮筋腫を合併することが多く、筋腫合併の腺筋症に対するUAEと筋腫を合併しない腺筋症とでは治療効果が違うのではないかという疑問を解決するための検討です。
 
結論としては腺筋症単独の場合でもゼラチンスポンジのみのUAEでも充分に治療の選択肢になりえると言うことです。

筋腫を合併した腺筋症でも充分治療効果があることは先の日本医学放射線学会総会で口演しました。

グラフから子宮腺筋症単独の場合でも3年で70-80%、5年で70%弱の患者さんが症状コントロールされていると言うことになります。

府中恵仁会病院UAEセンター

5月10日より診療を開始し、おかげさまをもちまして今月の外来予約は一杯となり、またUAE施術予定も5月は一杯となりました。

予想以上の受診、UAE施術数となりスタッフは急に大忙しとなってしまいましたが患者さんには満足して頂けるようにやって行きたいと思います。

UAE後の卵巣機能(3)

上のグラフは45歳以上の子宮腺筋症のUAE後のFSHの推移です。UAE前よりFSHが高く閉経が近いと予測される例もあることがわかります。45歳未満のグラフと比較するとまったく違っていることがわかります。45歳を境に女性は閉経に向かうということが理解できると思います。ところがまったくと言っていいほど安定している例もかなりあることがわかります。

以上のデータから私はUAEを受ける患者さんに“45歳以上の場合は10%程度の確率で閉経が早まるか、そのまま閉経になります。45歳未満の場合はそういった心配をする必要はほとんどありません”と説明しています。

UAE後の卵巣機能(2)

UAE後の卵巣機能をHPにリンクしました。関心のある方はタイトルをクリックしてください。

UAE後の卵巣機能(1)

UAEの合併症の一つに卵巣機能低下(不全)というのがあります。平たく言うと卵巣の働きが衰えて閉経になるということです。いくらUAEが筋腫や腺筋症に対して有効であるといっても卵巣機能の低下をきたしていたら受け入れられません。 卵巣機能を評価するのには基礎体温をつけてそれを解析することが一番なのですが、原則挙児希望がない女性にUAE前から基礎体温をつけさせるというのはいささか無理があります。そこでFSH(卵胞刺激ホルモン)という脳下垂体から分泌されるホルモンを測定します。E2(エストラジオール)はエストロゲンの一種ですが、変動が大きいのであまりあてになりません。比較的安定しているFSHを測定します。このグラフはUAEを施行した子宮腺筋症74症例のうち45歳未満35症例のFSHの推移です。ほとんどの症例でFSHが安定しているのがわかります。1例のみUAE後1年以内にFSHの一過性上昇が認められました。また2年後に一過性に上昇している例が1例ありました。この2例はUAE施行時の年齢は44歳でした。つまり、45歳未満の場合UAEを受けても卵巣機能は保たれると解釈していいと思います。

                             

子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検証する(3)

腺筋症に対するUAEの治療効果は自分なりにずいぶん検証し、臨床にフィードバックし成績を向上させようと努力してきました。

76例の腺筋症に対する症状コントロール率を梗塞率によらず検証してみました。 次のように定義しました。

1. 月経痛があっても軽くて薬は必要ない、もしくは市販の痛み止めを1-2回飲めば充分程度の場合は症状コントロールされているとみなす。
2. 閉経になった場合、月経が来なくなった時点で経過観察を中止とする。
3. 症状によらず、他の治療(ホルモン療法、手術療法)を受けた場合、その時点で症状コントロールされないと定義する。

なぜ3.があるのかですが、症状の再発はありませんでしたが、MRI画像で完全梗塞でない例があり、前もってホルモン療法を行えば症状コントロール期間が延長するのではと考え、GnRHaを施行した例があるからです。つまりホルモン療法が治療に介入したため、症状再発(本当はしていないが)と辛めに扱ったわけです。

そうすると次のようなグラフになりました。



これが2003年-2009年までの腺筋症に対するUAEの症状コントロール率ということになります。
平均して3年ならば85%以上の患者さんが、5年でも75%程以上の患者さんが再発したとしても痛み止めを飲む程度の再発であって症状がコントロールされるということになります。

子宮腺筋症に対して初めてUAEを行ったのが1999年でした。2003年より系統的に行い始めて7年が経過しています。ということはこれだけの事がわかるまでおよそ10年かかったことになります。またこれだけのことがわかるという仕事の場を葉山ハートセンター関係者が私に与えてくれたということになります。感謝しなくてはいけませんね。

子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検証する(2)

梗塞率のよいグループが悪いグループより症状コントロール率が悪くなるなんてことはありえないと考えるのが普通です。どうしてそうなったかは、軽い痛みの再発も、酷い痛みの再発も同じ“再発”として扱ったためでした。
そこでより客観的に検証してみました。
症状再発が本当に酷くなればホルモン療法、低用量ピル、さらに手術を受けることになるので、これらの治療法を受けた場合、再治療を受けたこととして、再治療を受けない率をグラフ化してみました。


するとA群がやっぱり成績がよく5年無再治療率が80%となりました。これはUAE後に腺筋症が完全梗塞となれば5年間で8割の患者さんはホルモン療法や手術を回避できるということです。そして完全梗塞でない場合は3年で6割強の患者さんが同様の治療効果を得ることができるということになります。
でも意外だったのはB群とC群と比較して治療効果に差がなかったことです。

では治療効果を上げるためにはどうしたらいいでしょう?

1.完全梗塞率を上げる
2.完全梗塞になる患者さんだけUAEを行う
3.閉経に近い人に行う

を思いつきました。 

1.の梗塞率を上げるためにはより強い塞栓を行う必要があります。塞栓物質をより小さいものにするとか、塞栓物質をぎゅうぎゅう押しこむような塞栓をするなどの方法論になります。

2.これは残念ながら現段階では前もって完全梗塞になるかならないかを判断できません。もちろんより多くの症例が蓄積されて解析された暁には判断できるようになりかもしれません。

3.閉経に近い人の判断が難しいですが、たとえば48歳以上の症例に対してデータ解析してみると正しいかどうかがわかります。

こうやって解析してみることにより、患者さんにより正確な情報を与えることができるようになります。つまり外来で腺筋症患者さんから治療効果の説明を求められたとき、かなりきちんとした説明ができるということになります。

それともう一つ、2003年の時点と現在では技術的にも上達しているので完全梗塞率そのものが上がっています。

2009年以降、14名の腺筋症患者さんにUAEを行いました。完全梗塞は11例でしたので11/14=78.6%、ここ1年余りの完全梗塞率は78.6%ということになります。

子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検証する(1)

自分のHPでも公開しているのですが、上のグラフがUAE後の症状コントロール率です。
2003年から2009年までにUAEを行った76例です。閉経になれば症状がなくなるので閉経になった時点でグラフは打ち切っています。
大まかに言えば5年のうちに1/3強の人は何らかの症状が再発するということになります。
軽い月経痛も、鎮痛剤を飲まなくては我慢できないほど強い月経痛も同じ“再発”として扱っているので主観的要因が入り込んでいるので純粋に科学的解析とはいえません。

UAE後の腺筋症病変部分の梗塞率によって治療効果が違っていることは経験的にわかっていましたので梗塞率の違いによってグループ分けをしてみました。

UAE後1ヶ月で造影MRIを撮り、腺筋症病変部が完全梗塞:GroupA(47/76=61.8%)、50-99%梗塞:GroupB(15/76=19.7%)、50%未満梗塞:GroupC(14/76=18.4%)と分けて解析すると下のようになりました。



あれ?梗塞率のいいB群が梗塞率の悪いC群より症状コントロール率が悪くなってしまいました。

カテーテルの練習

最近は血管カテーテル練習用の人体模型がお目見えして、初心者も練習できる環境のようです。
昨年あたりの学会にも陳列されていて、実際に操作をしてみたのですが、人間とは感覚がちがっていささかがっかりしました。

さて、そうするとUAEも含めたIVRの訓練も実際の患者さんで行うと言うことになりますが(もちろん初心者のうちは指導医について少しづつ訓練しますし、動物を使用してカテーテルの技術を学ぶこともあります)練習台にされたほうはたまりませんね。でも練習台がまったくなければどんな医療技術も発展しません。

放射線科医はおろか外科医でさえもどうやって練習すれば手術がうまくなるのか、その辺のことはまるで闇でよくわかりません。そこで違った分野からその道の名人の言葉を考えてみることにしました。


「わたしは練習はしない。言葉の一般的な意味では生涯練習したことはない。必要と感じたときだけ練習するんだ。すべては頭の中にあると考えている。あるパッセージがあって、それをどう演奏したいかも自分ではよくわかっている。」

「練習時間が1時間しか与えられていないとしたら、私は50分をスケールに費やす。残りの10分で曲をやるが難しい部分だけやる。これでどんな難曲をも弾いてみせる。」

「上達するためには1日中ヴァイオリンと一緒にいなくてはいけません。寝起きも共にするのです。」

「あらゆることをある程度までは練習するが、それを超えたところから本当の価値が始まる。練習曲を弾いていて疲れたら、それはまさに手が弱いことの証拠であり、そのときがまさに教則本を閉じては“いけない”時なのだ。」

それぞれの言葉にはいろいろなことがらに通じるところがありますね。

上から順に、フリッツ・クライスラー 、ヤッシャ・ハイフェッツ 、ダヴィッド・オイストラフ、 ルッジェーロ・リッチ の言葉です。

子宮動脈の選択的カテーテル挿入は実はそれほどむずかしくありません。 でも時としてとても難しいものがあります。 また卵巣動脈塞栓をしなくてはならないときもあります。こちらもとても難しいときがあります。

難しい症例はギブアップしても手技成功率は90%前後にはなるでしょう。 でも決して100%にはなりません。100%どころか98%にもならないと思います。

上達するためにいつもカテーテルを片隅におく必要はないけれどもガイドワイヤーやカテーテルの動きをいつも頭の中で組み立てていれば、またそういう習慣になれば、あえてガイドワイヤーやカテーテルを取り出して自宅であれこれする必要もなく、何か必要と感じたときにそうすればいいんですね。

そしてガイドワイヤーとカテーテルの動き、性質といった基本的なことに熟知していればどんなに難しいと思われる血管にもカテーテルを入れることができるということなのです。

----ある血管があってどうやってカテーテルを入れればいいか----

前もってMRIで子宮動脈がどう走行しているか判るのです。

府中恵仁会病院・UAEセンター

2010年5月10日から府中恵仁会病院でUAEを行うにあたって川崎市立井田病院婦人科部長であった鈴木昭太郎先生にお手伝いいただける予定でいます。
鈴木先生は1998年にUAEを開始した時の婦人科の担当でした。日本初のUAE後の妊娠・出産(正常妊娠・正常分娩でした)に携わった婦人科医です。UAEに関して最も造詣の深い婦人科医の一人でUAEに関するいくつかの論文・学会発表もあります。
今回、恵仁会病院にUAEセンターを設立するに当たって協力が得られる見込みです。カテーテルを握る私にとって百人力ともいえる先生のご協力を得られるなんて非常に幸運だと思っています。

UAE後の妊娠・出産

米国産婦人科学会は挙児希望者には原則としてUAEは行わないようにと声明を出しました。
しかし、臨床の現場では必ずしもそうは行きません。筋腫だけを切除することはどうしても難しいとか過去に何度か核出術を受けており癒着等が危惧され手術は難しいなどの場合があります。

そこで自分の経験例を出します。妊娠・出産はとてもデリケートな問題で、中には希望しない妊娠もあったりするわけでこの数が正確とはいえませんが、一応確認できているものだけ。

UAE後に妊娠した人:19人
UAE後の妊娠:23妊娠
UAE後の出産:17出産(経膣分娩11、帝王切開6)

本日学会発表です。

本日、日本医学放射線学会総会で発表します。

【子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジによるUAE】 です。

経過観察期間が長くなったので多少の数値の違いが出ましたが、対象は変わりません。
抄録の締め切りの後から3月までに葉山だけで8人の腺筋症患者さんのUAEをしましたが、
あえてそれは加えませんでした。


 UAE for 76cases of adenomyosis (mean age: 43.6y.o)

・ Fluoroscopic time:2.8~60min(mean:8.4min)
  (記載もれ2例のため74例で75回のUAE-1例 は片側塞栓のため翌日に再UAE)

・ Complete infarction:61.8% (MRI 1 month after UAE)
・ Symptom recurrence:15(19.7%、3~54m、mean19.8m)
・ Re-treatment:10(13.5%、1~54m、mean 17.8m)
・ Amenorrhea after UAE:12 menopause:9, transient:2 ,Aschermann synd:1
     (menopause: over 45y.o.、1~42m after UAE、mean 23.1m)
      
が結果です。 結論は

UAE using gelatin sponge particles made by the pumping methods might be one of the treatments for uterine adenomyosis

スライドは英語表記が望ましいと学会からのお達しなので英語になってしまいました。
(作成したスライドからコピーしました。)

頚部筋腫に対するUAE

頚部筋腫は手術しにくい筋腫です。 核出どころか全摘さえもやっかいといわれています。
頚部筋腫にUAEが有効であれば女性にとって大きな福音となりますね。

では、頚部筋腫に対するUAEの治療効果はどうでしょうか。

私は頚部筋腫であろうがなかろうか、粘膜下筋腫の場合、直径が6cm以下ならばまったく安全にUAEができると判断しています。 筋腫分娩(排泄)が起きても6cm以下ならまったく問題がなく、自宅で分娩してくださいということです。

未産婦の場合なら8cmまで経産婦なら10cmまでが安全です。

もちろんそれ以上の大きさの場合でも筋腫分娩をきたしても外来で切除ができます。

アモルクリニックにおけるデータではUAE700例中、頚部筋腫は15例(2.1%)でUAE後に排泄した例は4例(26.6%)でした。
排泄された時期はUAE後6日、7日、18日、21日でした。

つまり頚部筋腫の場合4人に一人が筋腫が排泄され、排泄される時期は3週間以内ということになります。

これはUAE700例というまとまった数の症例を経験したからこそいえることなのです。

症例数が大切であるといわれる所以ですね。

移籍します

東京都の病院にUAEセンターが設立される運びとなり、センター長を拝命いたしました。

5月10日より新病院にて診療をいたします。

葉山ハートセンターの外来は4月一杯を持ちまして終了いたします。

尚、新病院での診療等に関しても詳細が決まり次第、報告いたします。

最後の公開医学講座

2003年に葉山ハートセンターに入職して以来、医学公開講座を欠かさず行ってきました。
平均して一月に2回、多いときは3回したこともあります。丸7年以上継続して行ってきましたので、公開講座で使用するスライドを一瞥しただけで内容を諳んじるまでになりました。
2時間以内と決められた時間内で70枚あまりのスライドを使用して、よどみなく話さなくてはなりません。しかも相手は専門家ではなく、一般の方々です。
これは自分の勉強にもなりました。一般の方々からの質問にもわかりやすく答えなくてはならないために、掘り下げて勉強することが必要になります。

たとえば、卵巣機能です。 UAEの合併症の一つに卵巣機能低下が上げられます。 45歳以上の5-10%に起こるといられていますが、要するに閉経に近づくというわけです。

卵巣機能をどう評価するか。

基礎体温をつけることが正確に卵巣機能を把握できますが、現実的にUAE後の患者さんに基礎体温をつけさせるということは不可能です。

では女性ホルモンであるエストロゲンを測定するのはどうかというと、日内変動もあるし、性周期によって大きく違ってきます。

卵胞刺激ホルモンFSHが日内変動も大きくなく指標としていいだろうということになっています。

専門家相手なら、FSHが上昇する、、と言っただけで話しが通じますが、一般の方々はそうはいきません。

継続は力なりとはよく言ったもので丸7年医学公開講座ができたことは感謝せねばなりませんね。

本日の公開講座が葉山ハートセンター在職中最後の公開講座となります。

Uterine Fibroid Embolization

CIRSEの子宮動脈塞栓術の紹介サイトです。

CIRSE

Cardiovascular and Interventional Radiological Society of Europe
という長い名前の学会です。
ヨーロッパ心臓血管・IVR学会が日本語訳になりますね。
2000年にUAEに関して発表した学会です。

http://www.uterinefibroids.eu/

子宮動脈塞栓ですからUterine Artery Embolization なのですが、子宮筋腫を塞栓するので
Uterine Fibroid Embolization というわけですね。

筋腫を英語でFibroidともいいます。Myoma ,Leiomyomaというのが医学英語ですが、Fibroidが判りやすいんでしょうか。

9カ国語で説明されているようです。 日本語はありませんね。

子宮腺筋症に対するUAE(5)

5月に行われる第39回日本IVR学会総会に演題を応募したところ採択されましたので、抄録を載せておきます。

日本医学放射線学会での演題も子宮腺筋症に対するUAEですが、子宮腺筋症は子宮筋腫を合併することが多く、合併した筋腫への効果も成績に反映してしまうのではないかという疑問から、今回は純粋に子宮腺筋症だけを対象とした治療成績を検討しました。

   子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジ使用によるUAE

【目的】ポンピング法にて作成したゼラチンスポンジを塞栓物質とした子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検討。

【方法】2003年から2009年まで当院にてUAEが施行された子宮腺筋症82例のうち筋腫合併を除く37症例を対象。塞栓物質は充分にポンピングしたGelfoamのみ。塞栓の程度はDSA上子宮動脈水平枝が描出されなくなるまでとした。UAE施行時の年齢は29-52歳(平均42.9歳)、経過観察1-71ヶ月(平均20.8ヶ月)。UAE前後のMRI画像、臨床症状、FSH、CA125を検討。

【成績】両側子宮動脈塞栓36例、両側および右卵巣動脈付加塞栓1例であった。全例でUAE後48時間以内の退院が可能であった。UAE後1ヶ月の造影MRIにて腺筋症病変の梗塞領域を検討したところ、完全梗塞23例(62.2%)、50-99%梗塞9例(24.3%)、50%未満梗塞5例(13.5%)であった。全例でUAE後から月経痛、過多月経等の臨床症状は改善されたが経過観察中5例で症状再燃が認められ、症状再燃までの期間は3-36ヶ月(平均15.6ヶ月)であった。再治療が4例(ATH:1例、GnRHa:3例)に施行された。UAE後の無月経は6例(一過性:2例、閉経:3例、子宮性:1例)でUAE施行時年齢はいずれも45歳以上であった。CA125の低下は梗塞領域とよく相関した。

【結論】ポンピング法ゼラチンスポンジによるUAEは子宮腺筋症に対して有用で安全な治療法と思われた。

結論から言うと、子宮腺筋症に対するUAEは筋腫合併の場合もそうでない場合も成績はほぼ同等であるということです。それから筋腫に対するUAEの場合よりも塞栓物質をやや細かくし、強めに塞栓しているにもかかわらず、卵巣機能が有意に低下するということはなく、むしろ卵巣機能低下は年齢が大きな要因であるということです。

カテーテルと弓

血管カテーテルによる造影法や治療法の教科書を見ると手技のやり方、注意点、合併症は書かれていますが、カテーテルそのものの操作法を掘り下げて書いた教科書は見当たりません。(私が知らないだけであるのかもしれませんが。)

実際カテーテルは基本的に“押す”“引く”“時計回りに回す”“反時計回りに回す”の4つしかなく、この組み合わせ(たとえば時計回りに回しながら引く)から成っています。
とても単純ですね。

でも血管は必ずしもまっすぐでなく、血管壁がでこぼこのこともあるし血管そのものが弾力性がある場合もあるし、弾力性がなく硬いこともあります。
UAEをしていると女性は45歳を過ぎたあたりから血管に屈曲や蛇行が多くなることに気がつきます。

ところでヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツはこう言っています。

「フロッグで弓を返す時、弓が腕の延長であり、手首の一部であるという感じを持たねばならない。」(私の演奏法 名演奏家と指導者へのインタヴュー第1巻:サミュエル・アプルバウム、セーダ・アプルバウム著/野田 彰 訳)

ハイフェッツ自身カテーテルを持ったことはないと思いますが、“弓”を“カテーテル”に置き換えることができると思います。もちろんフロッグで弓を返す時だけではなく、カテーテルを持っている時はいつでもですが。

案外、医学とは関係のないところでカテーテル操作法を掘り下げた教科書があったようです。

もちろん私の運弓はハイフェッツの運弓にははるかに及ばないことを付け加えておきます。

妊娠・出産希望者にUAEは適しているのか?

妊娠・出産を希望することを挙児希望といいます。女性であれば多かれ少なかれ希望する時期はあるかあったか、将来あるといえるでしょう。
UAEによって筋腫や腺筋症が小さくなったり、過多月経や月経痛が消失し、妊娠しやすくなればとても喜ばしいことです。
分娩時における大量子宮出血に対してUAEを行った場合、その後妊娠・出産があることは経験的に知られています。
筋腫・腺筋症に対するUAE後の妊娠・出産もめずらしくありません。
ポーランドのある大学病院ではUAE症例が豊富で、その後の出産も多く、UAE学級と呼べるような子供たちがいっぱいいることが学会で報告されています。
ところがアメリカでは産婦人科学会が、挙児希望者にUAEは原則禁忌なる発表をしました。UAE後の妊娠・出産が安全であるというエビデンス(確証)はまだ充分でないという理由からです。
確かにUAE後に妊娠・出産に関して不利と思える状況は起こりえます。以下の3点です

1. 卵巣機能低下
2. 子宮内膜癒着(アッシャーマン症候群)
3. 子宮内膜の部分的欠損

1.は45歳以上の5-10%に起こりえます。2.は数% 3.も数%
2のアッシャーマン症候群が起きると月経は来なくなるかあってもほんとに少量です。妊娠しにくくなります(しないというわけではありません)。3の内膜の部分的欠損は、仮に妊娠した場合、欠損部に癒着胎盤が起こり得、出産時の大量出血をきたす場合があるということです。3が確認されたら内膜が再生されるまで避妊をしなくてはなりません。

私は挙児希望の場合、可能であれば核出術を薦めています。

でも現実はそう簡単でなく、患者さんの中には過去2回の開腹核出術と2回の子宮鏡下核出術、あわせて4回もの手術を経験し再発、さすがにもう手術は嫌だという方もいるのです。

臨床の現場は教科書どおりには行きませんね。

世界中で行われているUAE

世界中で行われていると書くと、世界は200カ国余りあるのでどの国で行われていてどの国で行われていないのかを知っているのかと怒られてしまいそうですが、先進国といわれている国ではまず行われているようです。これは医学雑誌を見るとわかることなのです。
ロシア、ポーランド、ベラルーシ、イラン、トルコでも行われています。

以前タイ、バンコクの大学の先生がUAEを見学しに来られた事がありましたがその時はタイではまだUAEが行われていないと言っていました。でも今では行われています。
料金は日本と同じで40万円から50万円ほどです。

国によって医療制度が違うのでUAEに対する支払いも違うようです。

オーストラリアではUAEは保険収載されており、病院窓口での支払いはないそうです。

日本でもUAEが保険収載されれば4,50万円の3割負担ですから窓口で14,5万円を支払えばよく、高額医療になるので後に7,8万円が還付されるということになりますね。
そうなればUAE後に再発しても再UAEを選択しやすくなります。

アメリカでは1万ドルから4万ドルと差があるようですが、保険収載されており個人が加入している民間の保険会社が支払う仕組みになっているようです。ただし子宮筋腫に限ってのことであり、腺筋症は該当しないようです。つまり保険会社はUAEの治療効果が筋腫と腺筋症とでは違うということを理解しているということになります。

筋腫の場合は支払う=筋腫に対してはきわめて有効 ということであり、腺筋症に対して支払わないのは筋腫ほどは効果がないと理解しているということなんですね。

保険会社は患者さんに「子宮筋腫ならUAEの施術料を支払いますが、腺筋症は支払いませんよ。」ということです。腺筋症でUAEを希望した場合、アメリカでは保険会社が支払わないので自分で1万ドルから4万ドルを支払わなくてはならないということですね。これならば日本に来てUAEを受けたほうが安くすむので、実際に日本にやってきてUAEを受けた方が何人かおられます。

マダガスカルから見学に来られた先生は私が使用するカテーテルにとても興味を持たれ、マダガスカルに帰国したらぜひ同じカテーテルでUAEを行いたいといっておられました。その先生はフランス人で、あとでマダガスカルを調べてみたらかつてはフランスの植民地だったんですね。

その先生に、「子宮筋腫のUAEはフランス発だから何も私のカテーテルを使わなくてもフランス式でいいじゃない?」と言ったら、「いや、Made in Japan がお気に入りでね。」とおどけていました。

卵巣動脈塞栓で卵巣機能は低下するのか?

UAEの合併症の一つに卵巣機能低下があげられます。平たく言うと閉経状態になるということです。卵巣は主として卵巣動脈から血流を受けますが子宮動脈と卵巣動脈とは吻合、つまりネットワークがあるため子宮動脈を塞栓することにより卵巣への血流も低下して機能低下をきたす場合がありえるということです。内外の報告によると45歳以上でUAEを受けた場合、10%程度がそのまま閉経になるか閉経が早まるといわれており、44歳以下ならばその可能性は1%以下ということです。

では卵巣動脈を塞栓した場合はどうでしょうか。
実は、頻度は低いのですが卵巣動脈から血流を受ける子宮筋腫があります。
この場合、血流を供給する卵巣動脈を塞栓しなければ筋腫は生き残ってしまうことになります。でもUAEに卵巣動脈塞栓を加える事に関しては議論があります。
なぜならUAEはあくまで子宮動脈塞栓術であって卵巣動脈塞栓術ではないのです。卵巣動脈を塞栓するということは卵巣への栄養源を断つことですから機能が失われてしまう恐れがあります。

問題点は2つあります。

1.子宮動脈塞栓+卵巣動脈塞栓により卵巣機能が(子宮動脈塞栓術よりも)有意に低下するのではないか?

2.子宮動脈塞栓術に卵巣動脈塞栓術が加わるため手技に要する時間が延長し、放射線被曝が増えてしまうのではないか?

葉山ハートセンターでUAEを施行した際に卵巣動脈も塞栓した症例を検討してみました。

14症例ありそのうち1例は2回の卵巣動脈塞栓を行っています。
UAE施行時の平均年齢は43.5歳でした。手技に要した透視時間は平均で16分(6.1-30.6)でした。

結論から言うとUAE後そのまま閉経になった人はいませんでした。
また米国のある大学病院のUAEの平均透視時間が約23分ということから考えると卵巣動脈塞栓を加えても平均16分なら許されると思います。
(もし、許さないという患者さんやお医者さんがいらっしゃいましたら私の元でのUAEはお勧めしません。)
46歳の方でUAE1ヵ月後に一過性にFSHが上昇(それでも22.8)しましたが3ヵ月後には3.9に戻っています。

卵巣動脈を塞栓しても直ちに卵巣機能低下に結びつかない理由の一つに、卵巣は左右にあり、UAE時に左右の卵巣動脈を塞栓することはないからと考えられています。

では左右の卵巣動脈を塞栓した場合はどうでしょうか?
私は1例だけ経験があるのです。
UAE後2年間経過観察をしましたがFSHの上昇はまったく認めず、更年期症状もきたしませんでした。機会があれば研究会か学会に発表しようかと思っています。

UAE後の腹腔鏡下筋腫核出術(2)

封筒を開けると患者さんの名前が記してありました。3度のUAEを施行した患者さんです。
何か手術中に不都合なことでも起きたのかと心配しましたが、お返事はいささか拍子抜けするものでした。手術時間も短く出血も少なかったのです。また病理の結果も良性の子宮平滑筋腫ということでした。すぐに執刀医の先生に電話をしました。関心があったことは

1.良性の平滑筋腫だったのか?

2.UAEのために筋腫が核出しにくかったのではないか?

の2点です。

1点目の「良性の平滑筋腫だったのか」は返信で解決しています。

問題は2点目の(腹腔鏡下にて)核出しにくかったのでは?です

執刀医の先生のお話では、通常の筋腫の核出術とかわりがないが、しいて言えば少し周囲組織からくり抜きにくい感があったも手術がしにくいというほどでもない。むしろ通常の手術より出血が少なかった。ということでした。

UAE後の腹腔鏡下筋腫核出術(1)

大きな筋層内筋腫の患者さんのUAEの経験です。日本在住の外国人の方でどうしても開腹手術を受けたくない、かといって腹腔鏡下では難しいといわれた方でした。
UAEにより筋腫の大部分が梗塞になり結果かなり縮小し満足されていましたが2年ほどして再増大し始めたため再UAEをすることになりました。
UAEは原則左右の子宮動脈を塞栓します。初回UAEでは左右の子宮動脈を塞栓しましたが、再UAE時には右の子宮動脈は閉塞し、左の子宮動脈と右の卵巣動脈から子宮筋腫への血流が認められたため、左子宮動脈と右卵巣動脈を塞栓しました。筋腫は完全梗塞となり1年後にはかなり小さくなりました。
卵巣動脈を塞栓すると卵巣の機能が落ちるのではないかと危惧されるのですが、月経は正常で卵巣を刺激するホルモンであるFSHも上昇は認められませんでした。
その後も経過を見ていましたがMRIで造影をすると筋腫の内部がわずかに造影効果が認められるようになりました。腹腔鏡でも充分に核出できると判断したので患者さんにそのように伝え、関連病院に依頼をしたところ手術待ちが1年ほどだというのです。
また信頼できる施設へ紹介状を持たせたのですが、そこでも1年待たなくてはならないということでした。
結局患者さんの強い希望でもう一度UAEをすることになりました。
再UAEは他院で行われたものも含めて経験がありましたが3度というのは初めてでした。
血管造影では子宮への血流は左子宮動脈と右卵巣動脈でしたのでそれぞれ塞栓しました。
UAE後の造影MRIでは筋腫内部に認められたわずかな造影効果はまったく認められなくなりました。この患者さんは実によく勉強している方で、血管塞栓をしても腫瘍が新たに栄養血管を作るようになればまた増大するということをよく知っていました。「あなたの筋腫はUAEに対して抵抗性がある筋腫かもしれない。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を産生するような筋腫かもしれない。すぐにというわけではないが筋腫は取ったほうがいいかもしれません。」とお話していました。しばらくしてその患者さんは以前に持たせた紹介状を持って腹腔鏡下核出術を受けたのでした。その施設から術中所見と紹介状に対する返事のお手紙が届きました。

子宮筋腫に対するUAE

子宮筋腫に対するUAEが報告されたのは1995年のRavinaによるLancet誌です。
では子宮筋腫に対してUAEの治療効果はどの程度なのでしょうか。
私は1998年から2006年までに施行した約900症例を集計してみました。約90%の症例にて筋腫がすべて完全梗塞になっていました。外来をしていると判るのですが、6-7割の患者さんが多発性子宮筋腫です。
筋腫の数が多くなると中にはUAE後に完全梗塞を免れるものが出てきます。
それでもUAEによって筋腫による症状、つまり過多月経、月経痛、圧迫症状はきわめて高率に緩和され、5年症状コントロールは90%以上でした。
しかし、UAEにてまったくといっていいほど塞栓されなかった例も経験しています。
2度のUAEを行なったにもかかわらずほとんど塞栓されなかった例がありました。
開腹手術を行ないましたが、子宮筋腫ではなく、靭帯内筋腫でした。
つまりこの場合は筋腫は子宮から発生したものではなく、子宮を支える靭帯から発生したものでした。
UAE前のMRIではしょう膜下筋腫の診断でしたが、実際におなかを開けてみると違ったというわけです。

子宮腺筋症に対するUAE(4)

子宮腺筋症にUAEが有効であるといっても不完全梗塞の患者さんが40%でそのうち20%は再治療が必要となればその患者さんにとってはあまりうれしくありません。40%のうち20%ですから8%ということになりますが、その患者さんにとっては100%なのですから。

そこで不完全梗塞の場合はUAE後どの位の期間で症状が再発してくるのかを検討しました。

2008年に開催された子宮筋腫塞栓療法研究会で発表しましたが、UAEを行なった76症例では13症例(17%)が何らかの症状再発がありそのうち6症例はたまに痛み止めを飲めばいい程度の月経痛でした。そういった軽度の症状も含めると最短で3ヵ月後、最長で43ヵ月後ということでした。平均すると20.8ヶ月、つまり1年と8ヶ月でした。

では再治療を要した7症例に関してどうだったのでしょう。

再治療までの期間を調べたところ、最短で3ヵ月後にホルモン療法が開始されています。
最長では38ヵ月後に開腹子宮全摘となっていました。平均すると14.4ヶ月、つまり1年と2ヶ月で再治療を受けることになっていました。再治療の内訳はホルモン療法、もしくは子宮全摘でした。

子宮腺筋症に対するUAEの難しいところは病変部が完全梗塞になるかならないかが術前に判断できないという点にあります。

個人的には、「あれだけしっかりと塞栓した」のに不完全梗塞になったり「もう少ししっかり塞栓すればよかったかな」と思ったにもかかわらず、完全に梗塞になっていたりすることがあるのです。

UAEは本当に難しいと思います。 でもやりがいもありますね。

子宮腺筋症に対するUAE(3)

自分の経験の他、内外の文献、UAEを行っている医師らの情報交換等から塞栓物質をやや小さくし、強く塞栓することによって腺筋症病変部の梗塞を起こすことができ、より長期にわたって症状を緩和させることが可能となることがわかってきました。
2010年4月に行なわれる、日本医学放射線学会総会に演題を応募したところ採択されましたので、抄録を載せておきます。

子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジによるUAE


【目的】ポンピング法によって作製されたGelfoamを塞栓物質とした子宮腺筋症に対する子宮動脈塞栓術(UAE)の治療効果を検討。
【対象・方法】2003年4月~2009年9月までに連続してUAEを施行した子宮腺筋症76例を検討。UAE施行時29-54(平均43.8)歳。筋腫合併43例(56.6%)。検討項目:MRI、CA125、FSH、臨床症状。経過観察期間:1-77(平均27.3)ヶ月。
塞栓血管は両側子宮動脈74例、右子宮動脈のみ1例(左子宮動脈欠損のため)、両側子宮動脈+右卵巣動脈1例。十分にポンピングしたGelfoamのみを使用し、DSA上、子宮動脈水平枝が完全に消失するまで塞栓。全例にUAE前後のMRIを施行し、UAE後1ヶ月の造影MRIで腺筋症病変部の梗塞領域によりA群(完全梗塞)、B群(不完全であるが梗塞領域は50%以上)、C群(不完全で梗塞領域は50%未満、もしくは梗塞領域を認めない)に分類。
【結果】A群47例(47/76=61.8%)B群15例(15/76=19.7%)C群14例(14/76=18.4%)を得た。13症例(17.1%)に経過観察中に何らかの症状再燃が認められ、再燃までの期間はUAE後3~43(平均20.8)ヶ月。再治療は8例(10.5%:ATH3例、GnRHa5例)で再治療率はA、B、C群でそれぞれ4.3%(2/47)、20%(3/15)、21.4%(3/14)。
UAE後の永久的無月経は10例でUAE施行時いずれも45歳以上。A,B,C群の順にCA125の正常化が著明。44歳以下(33例)ではUAE後1年以内のFSHの一過性上昇を1例にのみ認めた。
【結論】ポンピング法ゼラチンスポンジによるUAEは子宮腺筋症治療の選択肢の一つになり得る。

つまりいままでの経験から子宮腺筋症の場合UAEによって60%の患者さんは病変部の完全梗塞が起き、再治療を要したのはわずか4%であったのに対し、不完全梗塞の場合は20%が再治療を要したということです。
しかし、逆に言うと不完全梗塞になった場合でも80%の患者さんは再治療が不要ということであれば、UAEという治療を腺筋症治療のオプションの一つとしてもよいのではないかということです。
もちろん経過観察期間が最長6年程度ですのでより長期にわたった場合は再発が出てくるとは思いますが、腺筋症に悩まされる年齢が平均40歳代ということを考慮すると十分に治療のオプションとなりえると思います。

子宮腺筋症に対するUAE(2)

そこで子宮筋腫の場合も含めてUAEの効果を学会で発表することにしました。
CIRSE(CardioVascular&Interventional Radiolical Society of Europe)という長い名前のヨーロッパの学会です。 以下のような内容を発表しました。2000年9月のことでした。

【子宮筋腫12例、子宮腺筋症2例、筋腫と腺筋症の合併1例に対してUAEを施行。
画像による治療効果はMRIにてUAE後1日、3,6,12ヶ月で判定。
UAE後第1回目の月経から月経困難等の症状は緩和。筋腫はUAE後3ヶ月で平均57%の縮小率を示したが腺筋症の場合は縮小はわずかであった。
子宮筋腫の1例にUAE後5日目に筋腫分娩をきたした。片側塞栓の1例にUAE後6ヶ月で症状再発のため再UAE施行。

短期的にはUAEは子宮筋腫、子宮腺筋症に対して有効であった。 腺筋症に対しては縮小率は期待はずれであった。

UAEの治療効果を結論つけるにはより長期的な経過観察を要するであろう。特に腺筋症の場合にはそうである。】

オランダのマーストリヒトという都市での学会で、つたない英語で喋りました。会場からは、筋腫の場合は良好な縮小率だが、腺筋症の場合はそうではないということから、大きな腺筋症で頻尿などの圧迫症状はあまり改善されないということでいいのか? という質問が来ました。
残念ながらそういうことだ。 と返答しました。

もちろん現在はそうではありません。

子宮腺筋症に対するUAE(1)

子宮腺筋症という病気があります。 子宮内膜症が子宮の筋層内に起こる病態と考えられていますが、子宮内膜症とは別の病気という考え方もあるようです。
問題なのは正常の子宮筋層と腺筋症との病変部の境界がはっきりしないこともあり腺筋症病変部だけを手術的に取り除くことが困難であることが少なくないということです。
もしUAEがこの子宮腺筋症に対して有効であれば患者さんにとって大きな福音となります。
私は1998年に子宮筋腫に対するUAEに取り組み、腺筋症に対してUAEを行ったのは1999年でした。
子宮筋腫と同じように塞栓しましたが、はじめの1年くらいは症状が軽くなって良かったのですが、1年を過ぎるとだんだんと元通りになっていきました。

UAE :Uterine Artery Embolization:子宮動脈塞栓術

脚の付け根にある大腿動脈からカテーテルという細い管を挿入して、エックス線透視を用い、子宮動脈まで挿入します。カテーテルは外径が1.3mmです。
そこから塞栓物質という細かい粒子を注入します。塞栓物質は血流にのって子宮筋腫・子宮腺筋症を栄養する動脈を塞ぎます。
左右の子宮動脈にこの操作を行ったらカテーテルを抜いて終了です。
エックス線被曝を伴いますので短時間で終了させることが重要です。この手技は通常10-20分で終了させることができます。UAE後には一過性の子宮虚血による下腹部痛がおきますが、鎮痛剤にて制御できます。24-48時間で退院可能なほど回復が早いのが特徴です。
通常のデスクワークであれば1週間、運動、長期の旅行は2週経てば大丈夫です。
ほとんどの症例でUAE前にあった過多月経、月経痛、貧血、圧迫症状から開放されます。