子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検証する(2)

梗塞率のよいグループが悪いグループより症状コントロール率が悪くなるなんてことはありえないと考えるのが普通です。どうしてそうなったかは、軽い痛みの再発も、酷い痛みの再発も同じ“再発”として扱ったためでした。
そこでより客観的に検証してみました。
症状再発が本当に酷くなればホルモン療法、低用量ピル、さらに手術を受けることになるので、これらの治療法を受けた場合、再治療を受けたこととして、再治療を受けない率をグラフ化してみました。


するとA群がやっぱり成績がよく5年無再治療率が80%となりました。これはUAE後に腺筋症が完全梗塞となれば5年間で8割の患者さんはホルモン療法や手術を回避できるということです。そして完全梗塞でない場合は3年で6割強の患者さんが同様の治療効果を得ることができるということになります。
でも意外だったのはB群とC群と比較して治療効果に差がなかったことです。

では治療効果を上げるためにはどうしたらいいでしょう?

1.完全梗塞率を上げる
2.完全梗塞になる患者さんだけUAEを行う
3.閉経に近い人に行う

を思いつきました。 

1.の梗塞率を上げるためにはより強い塞栓を行う必要があります。塞栓物質をより小さいものにするとか、塞栓物質をぎゅうぎゅう押しこむような塞栓をするなどの方法論になります。

2.これは残念ながら現段階では前もって完全梗塞になるかならないかを判断できません。もちろんより多くの症例が蓄積されて解析された暁には判断できるようになりかもしれません。

3.閉経に近い人の判断が難しいですが、たとえば48歳以上の症例に対してデータ解析してみると正しいかどうかがわかります。

こうやって解析してみることにより、患者さんにより正確な情報を与えることができるようになります。つまり外来で腺筋症患者さんから治療効果の説明を求められたとき、かなりきちんとした説明ができるということになります。

それともう一つ、2003年の時点と現在では技術的にも上達しているので完全梗塞率そのものが上がっています。

2009年以降、14名の腺筋症患者さんにUAEを行いました。完全梗塞は11例でしたので11/14=78.6%、ここ1年余りの完全梗塞率は78.6%ということになります。

子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検証する(1)

自分のHPでも公開しているのですが、上のグラフがUAE後の症状コントロール率です。
2003年から2009年までにUAEを行った76例です。閉経になれば症状がなくなるので閉経になった時点でグラフは打ち切っています。
大まかに言えば5年のうちに1/3強の人は何らかの症状が再発するということになります。
軽い月経痛も、鎮痛剤を飲まなくては我慢できないほど強い月経痛も同じ“再発”として扱っているので主観的要因が入り込んでいるので純粋に科学的解析とはいえません。

UAE後の腺筋症病変部分の梗塞率によって治療効果が違っていることは経験的にわかっていましたので梗塞率の違いによってグループ分けをしてみました。

UAE後1ヶ月で造影MRIを撮り、腺筋症病変部が完全梗塞:GroupA(47/76=61.8%)、50-99%梗塞:GroupB(15/76=19.7%)、50%未満梗塞:GroupC(14/76=18.4%)と分けて解析すると下のようになりました。



あれ?梗塞率のいいB群が梗塞率の悪いC群より症状コントロール率が悪くなってしまいました。

カテーテルの練習

最近は血管カテーテル練習用の人体模型がお目見えして、初心者も練習できる環境のようです。
昨年あたりの学会にも陳列されていて、実際に操作をしてみたのですが、人間とは感覚がちがっていささかがっかりしました。

さて、そうするとUAEも含めたIVRの訓練も実際の患者さんで行うと言うことになりますが(もちろん初心者のうちは指導医について少しづつ訓練しますし、動物を使用してカテーテルの技術を学ぶこともあります)練習台にされたほうはたまりませんね。でも練習台がまったくなければどんな医療技術も発展しません。

放射線科医はおろか外科医でさえもどうやって練習すれば手術がうまくなるのか、その辺のことはまるで闇でよくわかりません。そこで違った分野からその道の名人の言葉を考えてみることにしました。


「わたしは練習はしない。言葉の一般的な意味では生涯練習したことはない。必要と感じたときだけ練習するんだ。すべては頭の中にあると考えている。あるパッセージがあって、それをどう演奏したいかも自分ではよくわかっている。」

「練習時間が1時間しか与えられていないとしたら、私は50分をスケールに費やす。残りの10分で曲をやるが難しい部分だけやる。これでどんな難曲をも弾いてみせる。」

「上達するためには1日中ヴァイオリンと一緒にいなくてはいけません。寝起きも共にするのです。」

「あらゆることをある程度までは練習するが、それを超えたところから本当の価値が始まる。練習曲を弾いていて疲れたら、それはまさに手が弱いことの証拠であり、そのときがまさに教則本を閉じては“いけない”時なのだ。」

それぞれの言葉にはいろいろなことがらに通じるところがありますね。

上から順に、フリッツ・クライスラー 、ヤッシャ・ハイフェッツ 、ダヴィッド・オイストラフ、 ルッジェーロ・リッチ の言葉です。

子宮動脈の選択的カテーテル挿入は実はそれほどむずかしくありません。 でも時としてとても難しいものがあります。 また卵巣動脈塞栓をしなくてはならないときもあります。こちらもとても難しいときがあります。

難しい症例はギブアップしても手技成功率は90%前後にはなるでしょう。 でも決して100%にはなりません。100%どころか98%にもならないと思います。

上達するためにいつもカテーテルを片隅におく必要はないけれどもガイドワイヤーやカテーテルの動きをいつも頭の中で組み立てていれば、またそういう習慣になれば、あえてガイドワイヤーやカテーテルを取り出して自宅であれこれする必要もなく、何か必要と感じたときにそうすればいいんですね。

そしてガイドワイヤーとカテーテルの動き、性質といった基本的なことに熟知していればどんなに難しいと思われる血管にもカテーテルを入れることができるということなのです。

----ある血管があってどうやってカテーテルを入れればいいか----

前もってMRIで子宮動脈がどう走行しているか判るのです。

府中恵仁会病院・UAEセンター

2010年5月10日から府中恵仁会病院でUAEを行うにあたって川崎市立井田病院婦人科部長であった鈴木昭太郎先生にお手伝いいただける予定でいます。
鈴木先生は1998年にUAEを開始した時の婦人科の担当でした。日本初のUAE後の妊娠・出産(正常妊娠・正常分娩でした)に携わった婦人科医です。UAEに関して最も造詣の深い婦人科医の一人でUAEに関するいくつかの論文・学会発表もあります。
今回、恵仁会病院にUAEセンターを設立するに当たって協力が得られる見込みです。カテーテルを握る私にとって百人力ともいえる先生のご協力を得られるなんて非常に幸運だと思っています。

UAE後の妊娠・出産

米国産婦人科学会は挙児希望者には原則としてUAEは行わないようにと声明を出しました。
しかし、臨床の現場では必ずしもそうは行きません。筋腫だけを切除することはどうしても難しいとか過去に何度か核出術を受けており癒着等が危惧され手術は難しいなどの場合があります。

そこで自分の経験例を出します。妊娠・出産はとてもデリケートな問題で、中には希望しない妊娠もあったりするわけでこの数が正確とはいえませんが、一応確認できているものだけ。

UAE後に妊娠した人:19人
UAE後の妊娠:23妊娠
UAE後の出産:17出産(経膣分娩11、帝王切開6)

本日学会発表です。

本日、日本医学放射線学会総会で発表します。

【子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジによるUAE】 です。

経過観察期間が長くなったので多少の数値の違いが出ましたが、対象は変わりません。
抄録の締め切りの後から3月までに葉山だけで8人の腺筋症患者さんのUAEをしましたが、
あえてそれは加えませんでした。


 UAE for 76cases of adenomyosis (mean age: 43.6y.o)

・ Fluoroscopic time:2.8~60min(mean:8.4min)
  (記載もれ2例のため74例で75回のUAE-1例 は片側塞栓のため翌日に再UAE)

・ Complete infarction:61.8% (MRI 1 month after UAE)
・ Symptom recurrence:15(19.7%、3~54m、mean19.8m)
・ Re-treatment:10(13.5%、1~54m、mean 17.8m)
・ Amenorrhea after UAE:12 menopause:9, transient:2 ,Aschermann synd:1
     (menopause: over 45y.o.、1~42m after UAE、mean 23.1m)
      
が結果です。 結論は

UAE using gelatin sponge particles made by the pumping methods might be one of the treatments for uterine adenomyosis

スライドは英語表記が望ましいと学会からのお達しなので英語になってしまいました。
(作成したスライドからコピーしました。)

頚部筋腫に対するUAE

頚部筋腫は手術しにくい筋腫です。 核出どころか全摘さえもやっかいといわれています。
頚部筋腫にUAEが有効であれば女性にとって大きな福音となりますね。

では、頚部筋腫に対するUAEの治療効果はどうでしょうか。

私は頚部筋腫であろうがなかろうか、粘膜下筋腫の場合、直径が6cm以下ならばまったく安全にUAEができると判断しています。 筋腫分娩(排泄)が起きても6cm以下ならまったく問題がなく、自宅で分娩してくださいということです。

未産婦の場合なら8cmまで経産婦なら10cmまでが安全です。

もちろんそれ以上の大きさの場合でも筋腫分娩をきたしても外来で切除ができます。

アモルクリニックにおけるデータではUAE700例中、頚部筋腫は15例(2.1%)でUAE後に排泄した例は4例(26.6%)でした。
排泄された時期はUAE後6日、7日、18日、21日でした。

つまり頚部筋腫の場合4人に一人が筋腫が排泄され、排泄される時期は3週間以内ということになります。

これはUAE700例というまとまった数の症例を経験したからこそいえることなのです。

症例数が大切であるといわれる所以ですね。