外国の論文

Effect of Uterine Artery Embolization on Uterine and Leiomyoma Perfusion: Evidence of Transient Myometrial Ischemia on Magnetic Resonance Imaging

UAE後の血流をMRIで評価したという主旨の論文です。2010年4月にJVIR(Journal of Vascular and Interventional Radiology)という雑誌に発表されています。ドイツ発。

UAE直後は子宮全体に血流はないが、48-72時間以内に正常子宮部分の血流が回復し、梗塞になった筋腫は回復しないということです。観察期間は平均5ヶ月。

これを読んで、(抄録だけです全文は読んでいません)いささか驚いたというかやっぱりと思ったのは、
Ten patients had complete infarction of all leiomyomas; five presented with 11 partially perfused leiomyomas.


の部分で、15症例中すべての筋腫核が完全梗塞となったのが10例、5症例11の筋腫核が部分塞栓であったという文です。
 
つまり完全梗塞率は10/15=66.7%ということになります。
 
塞栓物質はtris-acryl gelatin microspheres という物質で日本では流通していません。
 
日本で行われているUAEの塞栓物質はゼラチンスポンジですが、おそらくどこの施設でも完全梗塞率は80%前後かそれ以上だと思います。
 
使用されたtris-acryl gelatin microspheres のサイズはわかりませんが、率直に言って、日本のUAEの方が成績が良い。欧米でUAE後5年で20%が再発というのはこの完全梗塞率の低さからも理解できます。
 
抄録はタイトルをクリックすると読めます。

UAE以外のIVR

府中恵仁会病院ではUAE以外のIVRも手がけています。 心臓血管系は心臓血管病センターで、脳血管は脳卒中センターで行っています。

今週は2例のUAEと1例の消化管出血に対する塞栓術を行いました。

消化管出血の患者さんは十二指腸の憩室からの出血で、内視鏡でおおよその止血はできましたが、十二指腸のより奥の部位からの出血に対する止血が困難で、血管からのアプローチによって止血しました。十二指腸アーケードと呼ばれる部分からの出血のため、まず腹腔動脈側から胃十二指腸動脈経由で上膵十二指腸動脈へカテーテルを進めコイルを留置しました。
出血部は下膵十二指腸側からも血流を受けるので、引き続き、上腸間膜動脈から空腸動脈第1枝
(J1と呼びます)へカテーテルを進め、下膵十二指腸動脈、さらに膵アーケードまでカテーテルを進めコイルを留置しました。

UAEの場合もそうですが、今回の消化管出血で膵アーケードまでの選択的なカテーテル挿入はマイクロカテーテルといわれる非常に細いカテーテルを使用してこそ可能になっており、さらにそのマイクロカテーテルのためのガイドワイヤー(マイクロガイドワイヤー:微細血管用ガイドワイヤー)を使用してこそ可能です。

ガイドワイヤーが到達すれば、カテーテルもそれに追従して挿入されると思われがちですが、必ずしもそうではありません。力学的、物理的な力のかかる方向、ガイドワイヤーとカテーテルの摩擦係数などが複雑に絡み合っているのです。

ガイドワイヤーとカテーテルの摩擦にも2種類あって、一つは静止摩擦、もう一つは動摩擦です。
ガイドワイヤーが目的の部位まで挿入されているのにカテーテルがそこまでいかない、カテーテルが動かないというのはカテーテルが進む方向への力が最大静止摩擦力を超えないからです。

こういうときには、カテーテルを押さないで、ガイドワイヤーを引き戻します。 ガイドワイヤーを引き戻しながらカテーテルを押します。つまり最大静止摩擦力を超える力をガイドワイヤーを引き戻すことによって作り、動摩擦の状態にします。そうするとカテーテルがするすると目的の部位に進んでいきます。 この操作を繰り返すことにより目的の部位までカテーテルを誘導させることが可能です。

こういったことは理屈でわかっていても体得するのは時間がかかります。

来週は2例のUAE、1例の肝動脈塞栓術が予定されています。

府中恵仁会病院でのUAE近況

府中恵仁会病院に東京UAEセンターを設立させていただきちょうど丸3ヶ月が経過しました。

府中恵仁会病院だけでこの3ヶ月間にのべ30名の患者さんにUAEをさせていただきました。
初診からUAE手技、入院管理、経過観察と一貫して私が行っております。もちろん婦人科鈴木先生の強力なバックアップの元です。

何かあったら婦人科が面倒みてくれるからいいやという気持ちではいけません。

婦人科に面倒見てもらわないように適応を厳格にし、副作用、合併症なく、治療効果を上げるようにしなくてはなりません。

子宮筋腫に対するUAE

子宮筋腫に対するUAEは1998年10月でした。 それまでは子宮ガンで出血が止まらない症例に対して行ったことはありました。進行したガンだったためガンの治療のためのUAEというより出血を軽減することが目的でした。
子宮筋腫に対するUAEは目的が違ってきます。 筋腫による症状(過多月経、月経痛、圧迫症状)を緩和することが目的です。 仮に緩和が半年程度であれば有効とはいえません。
最低でも3-5年は症状が緩和されていなくてはと考えます。
というのはリュープリンの注射1クールだけでおおよそ1年ほどは症状緩和が可能だからです。
3クール行えば3年ほどは症状緩和が期待できるのです。

UAEに関してはアメリカやフランスのデータでは3年でほぼ85%、5年で80%ほどが症状コントロールされているようです。

なんとなく良さそう思ってしまいますが、私は成績が悪いと思っています。

5年で20%が再発するということです。

あるクリニックだけで年間100症例ほどUAEを行いますが、5年で20%が再発するのなら5年以降毎年20人づつ再発するということになりますから10年やっていれば累積で100人が再発するということになります。

そのクリニックの院長先生と再発率に関して話しましたが「5年で20%も再発していたらやってられませんよ。せいぜい数%といったところですよ。」とおっしゃてくださいました。
ちょっとほっとしました。

UAEの透視時間

透視時間は大切です。 なぜなら透視により被曝するからです。 UAEは骨盤部を透視しながら行う手技なので当然卵巣に被曝します。

専門的になりますが、一時的不妊になる被ばく線量、永久的不妊になる被曝線量は数値で示されています。

私は患者さんにおよそ10分程度の透視時間だし、心配するほどの被曝はありませんよ。と説明しています。

ではUAEの際、どのくらいの透視時間がかかるのでしょう。 アメリカのジョージタウン大学の研究では平均23分程度の透視時間であったと発表されています。

私は最初の1例目からずっと透視時間は記載しているのです。最初の1例目は私は助手でした。最初のうちは私は助手でしたが、7-8例目あたりから私が術者になり、10例目あたりからは手技を行うのは私だけになったのです。1998年の事です。

さて最初の1例目から106例目までの透視時間をグラフにしてみると面白いことがわかりました。

最初の20例のうち透視時間が10分以内だったのは4例ありました。 内1例は第2例目の患者さんでしたから正確に言うと私の手技ではありません。残りの3例はいずれも私の手技によるものでした。いずれも7-8分でした。

第1例目から106例目までのUAEにかかった透視時間は最短3.3分、最長45.2分で平均11.5分でした。

グラフをみてわかったことは数をこなせば早くなるのではなく、数をこなすことにより時間がかかる症例が少なくなると言うことでした。

最初の50症例のうち10分以内の透視時間で終えたのは25例ありました。

つまり最初から私はUAEを短時間に終えていたのでした。

UAE、IVR、血管造影

今までに行った血管造影、IVR、UAEの症例数を集計する機会がありました。
10年ほど勤務した病院で約2500症例でした(UAEを除く)。UAEは約1850例でした。それ以外に心臓カテーテル(心臓カテーテルを行っていた時代が私にもあるのです。)、他院でのIVRを含めると約4500症例でした。研修医時代の症例は含めていません。

この4500症例という数が多いのか少ないのかはわかりません。

以前勤務していた葉山ハートセンターでは循環器医師によって心臓カテーテルだけで年間1000例以上行われていました。循環器医師は2名もしくは3名でしたから一人当たり330例以上は行っていることになりますね。10年のキャリアがあれば3300例、20年ならば6600例ということになりますから単純に比較すれば私など20年で4500例ですからひよっこ、いやスズメ医者ですね。

ここ数年は年間200例のペースでUAEを行っていますから来年中には2000例を突破すると思いますが、2000例を突破すればまた違った世界が見えてくるような気がします。またUAEは多い年でも年間270-280例でしたから、年間300例を超えるようになればまた違った世界が見えてくる気がします。

そうすれば

「200例に1例ほどとても子宮動脈にカテーテルを挿入するのが難しい場合があるんです。」

「子宮動脈が片側で2本ある人がいます。」

「子宮動脈が片側欠損している人がいます。」

「両側の卵巣動脈を塞栓せざるを得ない場合もあるのです。」

「塞栓効果は塞栓物質だけでなく造影剤の粘稠度や浸透圧にも左右されますよ。(それよりも一番大切なのは塞栓のさじかげんです。)」

「、、、、だったので手技に時間がかかってしまったのです。」

と患者さんに説明しても説得力がでてきますね。