子宮動脈塞栓術の大きな利点

子宮動脈塞栓術の利点に、おなかを切らない、子宮が温存される、短期間で社会復帰できる、、などいろいろありますが、最も大きな利点の一つが、癒着を作りにくいということです。
もちろん絶対に作らないとはいえませんが、その頻度はきわめて少ないと考えられます。

開腹手術の場合は必ずといっていいほど腸に癒着ができます。また本来腹腔は空気に触れていませんが、開腹手術をすれば空気に触れます。空気に触れたことがなかった臓器が空気に触れるということは生理的なことではありません。

以前私は腸閉塞(イレウスといいます。)の患者さんの腸の造影をしたことがあります。その患者さんは過去に一度だけ開腹手術をしたことがありました。子宮筋腫のため子宮全摘をした患者さんでした。もっとも当時はUAEどころか腹腔鏡手術も普及していない時代でした。

開腹手術による腸の癒着が原因となりイレウスを起こすことがあるのは医学の常識です。おなかはどうしてもあけなくてはならない場合を除いては極力開けないほうがいいのです。

もちろん子宮動脈塞栓術の後の癒着は0とはいいません。

私は12年間、1850名以上の患者さんにUAEを行ってきましたが、そのあとでイレウスを起こした患者さんはいません。もちろん将来も絶対に起きないという保障はありません。

府中恵仁会病院の血管カテーテル室

子宮筋腫・子宮腺筋症に対する治療にはいくつかの方法がありますが、放射線被曝があるのはUAEだけです。 簡単に言えばこれはデメリットになります。

特に卵巣への被曝は問題になることがあります。なぜなら卵巣は放射線感受性が高い臓器で、たくさん被曝すると機能低下してしまうからです。

こう聞くとなにか恐怖心が起きてしまいそうですが、よく理解すれば怖がることはありません。

以前このブログで米国ジョージタウン大学でのUAEの平均卵巣被曝が23cGであると書きました。
cはセンチですからm(ミリ)にすると230mG (Gはグレイ:吸収線量を表す単位)になります。

230mG程度の被曝であれば卵巣機能はもとより、発がん性や、遺伝的な影響は考えなくても良いとされています。

府中恵仁会病院の血管造影装置は被曝線量をリアルタイムに表示するのです。もちろんこの表示された線量は卵巣にかかった被曝線量ではありません。 表示された線量の10-30%程度が卵巣被曝になると考えられています。 

また治療時にはパルス透視といって、ずっと放射線が出ているのでなく、パルス状に断続的に放射線を出す方法をとり被曝軽減を図り、さらに絞りを使用し、卵巣付近には当てないようにしています。

塞栓物質を注入している時は、カテーテル先端だけの透視でもいいので絞りを最大活用し透視部位を極端に狭くします。

9分程度の透視時間でUAEを終えた患者さんがいました。 血管造影装置に表示された被曝線量は180mGでした。その10-30%が卵巣被曝とすれば18mG-54mGということになります。

c(センチ)に直すと1.8cG-5.4cGとなりジョージタウン大学から発表された平均23cGを大幅に下回ることになります。 もっとも患者さんの体格によって線量は変わりますからある程度の誤差はありますが、まず被曝を心配する必要はありません。

いつか症例を蓄積してフラットパネル搭載の最新型血管造影装置によるUAE時の被曝線量に関して学会発表をしようかと考えています。

ちょっと自慢ですが、府中恵仁会病院のカテーテル室はテレビドラマのロケでも使用されるぐらい立派です。もちろん血管造影装置もフラットパネル搭載の最新式です。フラットパネルにより従来の血管造影装置の1/2~1/3の被曝線量で明瞭な画像ができます。

私は恵仁会病院の血管カテーテル室、血管造影装置を一目見ただけで、最高レベルのUAE手技ができると確信しました。(これが赴任することになった理由の一つでもあります。)

もう一つ自慢があります。 UAE手技のスタッフは私以外は全員女性です。 診療放射線技師も女性です。有能な放射線技師は患者さんの卵巣に被曝しないように絞りを最大限に活用してくれます。女性だからこそわかるのかもしれません。

でも被曝が少ないということは術者やスタッフも助かります。(私たちも被曝するのですから。)

タイトルをクリックすると血管カテーテル室を(ちょっとですが)見る事ができます。

外科医 須磨久善

9月5日(日)に外科医 須磨久善というテレビドラマが放送されます。

私は2003年1月から2010年4月まで葉山ハートセンターでUAEを行っていました。
2003年に葉山ハートセンターに入職した当時の病院長が須磨久善先生でした。
婦人科領域のUAEがなぜ心臓専門病院で行えたかというと血管カテーテルという血管からのアプローチで治療するという共通性があったからです。

須磨先生は心臓外科医で私は放射線科医ですから直接指導してもらったことはありません。でも同じ病院で日頃顔を合わせるわけですから仕事内容はお互いに伝わってきました。直接指導を受けたことはありませんから、師匠とは呼べませんが、治療後は患者さんの笑顔がなくてはならないということを教えてくださった点からは恩師と呼べます。

忘れられないのは葉山ハートセンター入職早々にある会議での須磨先生の発言です。

「鳴り物入りでやってくる医師は数多く見た。実際に2-3ヶ月すれば本物かどうかはすぐわかる。」

当時私はUAEの症例では日本で有数の症例数を持っていましたから、いわゆる「鳴り物」だったのかもしれません。早い話、へたくそだったらすぐにお払い箱になるという意味でした。でも今までやってきたとおりにやればなんとかなると信じていました。

葉山ハートセンターで働き始めてしばらくたってのことです。

あるおすし屋さんでカウンターにすわっていました。雑談しているうちにおすし屋のご主人が「先生。どこの病院?」と聞いてきました。私は「葉山のハートセンター」と答えたら、たまたまそばに座っていたお客さんが「先生。葉山なの?」といい、おもむろに胸をはだけ、

「これ、須磨先生に手術してもらったんだ!」

と言ったのです。胸には真一文字に手術の痕がありました。

さて当初はUAE症例だけでしたが、他の血管内治療もできるということがまわりの先生方にわかっていただけたせいか、多くはありませんが、腸骨動脈等、末梢血管の形成術にも参加させていただくことができました。またカテーテルアブレーションという不整脈治療も見学させていただきました。その斬新な画期的治療には目を見張ったものです。

UAE症例は順調に増え、7年余りで840症例ほどをさせていただくことができました。

須磨先生はさらなる発展を求めて東京にある病院に行かれましたが、今でも時折患者さんを紹介してくださります。紹介状をみるときはうれしさと同時に身が引き締まります。なぜなら患者さんを満足させると同時に紹介してくださった先生も納得させなくてはならないからです。

もちろん紹介状のあるなしで治療の質が変わることはありません。

テレビドラマ外科医-須磨久善を楽しみにしています。