UAE近況

平成24年の東京UAEセンターのUAE症例数は100例でした。技術的成功率100%、合併症はありませんでした。
当院は日本IVR学会専門医修練認定施設になっており、IVR症例を登録していますが、登録されている子宮筋腫・腺筋症に対するUAE症例は平成24年は全国で約190例であり、専門医修練施設で行われているUAEの過半数が当院で行われていることになります。

子宮筋腫に対する腹腔鏡下核出術とUAEの術後再治療に関する比較検討

http://www.jvir.org/article/S1051-0443(11)01745-3/fulltext

Retrospective comparative analysis of reintervention rates after laparoscopic myomectomy vs. uterine artery embolization in the treatment of symptomatic uterine fibroids


Campe et al. Radiology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA


2012 SIR: 2012年3月にサンフランシスコで行われた米国Interventional Radiology学会より


ボストン、マサチューセッツ総合病院で行われたUAEと腹腔鏡下核出術(LM)との術後再治療に関して比較検討したというもの。

UAEは50例(44.6±7.2才)、LMは26例(41±6.1才)。経過観察期間はUAE552±409日。LMは482±411日。



術後妊娠:UAE1例(2.4%)、LM3例(11.5%)。

再治療:UAE5例(10%)LM1例(3.8%)

UAE後の再治療5例の内訳は大きさに関するもの4例、持続する子宮出血1例。

再治療の内容は子宮全摘4例、再UAE1例、子宮内膜焼杓術1例。





まず、米国を代表する超有名病院であるマサチューセッツ総合病院ではUAEが行われているということです。UAE後の妊娠が1例あり、50例中1例なら2%のはずが、2.4%となっていることから、妊娠しない閉経後の患者さんにもUAEが行われたということ。(最高齢は51.8歳)。UAEは37歳以上に行われている、にもかかわらず妊娠例があるということ。UAE後に持続する子宮出血に対しては再UAEと子宮内膜焼杓術が行われたということ。


UAE後の再治療の80%が大きさに関するもので、これは縮小が十分でなかったということ。この演題の結論に-UAEの適応の検討が必要である。-と述べられているようにあまりに大きな筋腫の場合はUAEの適応からはずした方が成績向上するということです。再治療率はUAEの方が多いのですが統計的な差は認められなかったということです。

私は抄録しか読んでいませんが、この学会には北米からはマサチューセッツ総合病院以外からはニューヨーク大学、ジョージタウン大学、ブリテイッシュコロンビア大学といった有名大学の病院から演題が出ており、UAEの適応、塞栓のエンドポイント(さじかけん)、手技の上達方法といった内容であり、UAEは有効だったとかUAEを行ったらこんな合併症が起きたという演題はもはやなくなっています。

UAEは成熟期になっていると考えます。

新しい治療室でのUAE

本年5月より新しい治療室でUAEを行っています。
手術室内にDSA装置を導入し、UAEをはじめとするIVRと外科手術とが同時にできるいわばハイブリッド手術室です。
DSA装置も最新機種であり、少ない放射線量で明瞭な画像を得るように調整してあります。

筋腫核出術後の妊娠率、再発率

PiscoらによるとUAE後の妊娠率が58%と報告されています。
では筋腫核出術後の妊娠率はどうであるか調べてみました。

http://www.jsog.or.jp/PDF/53/5309-200.pdf

これによると開腹、腹腔鏡下のいずれも大差はなくおよそ50~60%でUAEと比較して遜色ありません。分娩率も大差はありません。

開腹した場合の癒着率は非常に高いことがわかります。腹腔鏡の場合は開腹よりは低いのですがそれでも少なくありません。UAEの場合はこの癒着がほとんどありません。

意外と高いのが筋腫核出術後の再発率です。開腹した場合は平均23%で、腹腔鏡下では30%に上ります。術後の経過観察期間が長くなるほど再発率は上昇するのですが、これらの報告での経過観察期間や再発の定義ははっきりしませんが、UAE後の再発が5年で10%(欧米では20%)であることからむしろUAEの方が再発率は低いかもしれません。

私が以前、将来UAEが非常に増えるだろうと予測したのはこの筋腫核出術後の再発率の高さです。特に腹腔鏡下では筋腫の取り残しが
あるのは必然で30%が再発するのであれば、再治療をする場合、癒着が問題となりある一定の割合で再治療にUAEが選択されると予測しているからです。

UAEを治療の選択肢と考えている方はぜひこの報告を読んで欲しいと思います。

子宮摘出で若年女性の早期閉経リスクは2倍になる

子宮を全摘しても卵巣を残すので閉経(卵巣機能不全)にはならなという説明
はしばしば聞かれますが、そうではないことがわかっています。

子宮筋腫に関しても、乳製品が筋腫を発生させるなどの“都市伝説”が蔓延
しているのではないでしょうか?

子宮全摘術が若年女性の閉経リスクを2倍近くに上昇させるという科学的
データがありますので、ここに載せたいと思います。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2012/M45060742/


〔米ノースカロライナ州ダーラム〕デューク大学(ダーラム)地域・家庭医学のPatricia G. Moorman准教授らは「子宮摘出術を受けた若年女性では,受けていない女性に比べ早発閉経リスクが2倍近く高くなる」とObstetrics & Gynecology(2011; 118: 1271-1279)に発表した。


手術の便益に潜むリスク

子宮摘出術は,子宮筋腫や機能性子宮出血を含む多くの疾患に対して行われている。米国で子宮摘出術を受ける女性は年間60万人に及ぶが,その長期転帰を検討した研究は少なかった。また,こうした研究のほとんどは小規模であったり,症状のみを基に閉経を分類しているなど限界があった。

そこで,Moorman准教授らは,同大学病院とダーラム地域病院から30~47歳の女性約900例を登録し,ベースライン時および年1回,血液検査と質問票によりデータを収集した。追跡期間は最長で5年間であった。そのうち465例が手術を受けていない健康対照で,406例が子宮摘出術(両側卵巣摘出例は除く)を受けていた。なお,今回の研究では血清中の卵胞刺激ホルモン(FSH)値が40IU/L以上となった場合を早発閉経と見なした。

子宮摘出術で卵巣を温存するのは,健康上の利点のあるホルモン産生を継続させるためである。同准教授は「排卵停止の要因が何であれ,早発閉経は骨粗鬆症や心疾患などのリスクを高める可能性があることは以前から指摘されていた」と説明している。

卵巣温存でもリスクが

今回の研究で,子宮摘出術群では卵巣を温存したにもかかわらず14.8%が4年間の追跡期間中に閉経していたことが判明した。一方,対照群では8%であった。

早発閉経リスクが最も高かったのは子宮とともに片側の卵巣を摘出した例であったが,両側卵巣を温存した例でも高かった。また,子宮摘出術群では,対照群と比べて約2年早く閉経を迎えると推定された。

Moorman准教授は「子宮摘出術後,一部女性で何が卵巣機能停止の引き金となるのかは不明である」とし,「手術により卵巣への血流が損なわれることが早期の卵巣機能停止を招くとする説や,手術自体ではなく術前の基礎疾患が原因であるとする説があるが,今のところ未解明である」と述べている。

また「原因が何であれ,今回の研究は患者とその主治医に潜在的リスクに関する具体的な情報を提供するものだ。子宮筋腫などで子宮摘出術を検討している女性が,早発閉経の可能性を知って他の治療選択肢を探すかもしれないし,治療法が変化する可能性もある」としている。





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乳製品摂取で子宮筋腫リスクが低下

乳製品の摂取が子宮筋腫の発症を低下させるというエビデンスのある報告がされました。

乳製品の摂取が1日1食分未満の群に比べ,4食分以上の群では子宮筋腫の発症率は30%低く,他の危険因子調整後も,乳製品の摂取量と子宮筋腫リスクとの間には負の相関が認められたということです。


アフリカ系女性では白人女性と比べて乳製品摂取が少ないため,この摂取量の差が子宮筋腫の発症率で見られる人種間格差に寄与している可能性があると指摘しています。


 Wise准教授は「正確な機序は不明であるが,乳製品によって子宮筋腫リスクが低下してもなんら不思議ではない。乳製品の主成分であるCaが細胞増殖を抑制している可能性がある」と説明。今回の研究について「乳製品摂取と子宮筋腫リスクとが逆相関することが初めて示された。今後,もしこの関係が証明されれば,主要な婦人科系疾患である子宮筋腫において,調整可能な危険因子が特定されたことになる」と期待を寄せているということです。

尚、大豆の摂取も子宮筋腫のリスクにはならないということです。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2010/M43170211/

 

 
http://aje.oxfordjournals.org/content/171/2/221.short

良性疾患での子宮摘出は腎細胞癌リスクを高める

衝撃的と同時に、ホンマかいな?と思ってしまう報告があります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21149759


子宮筋腫などの良性疾患で子宮摘出術を受けた女性を術後長期にわたって追跡した集団ベースのコホート研究で、子宮摘出術を受けた女性では、子宮摘出を受けていない女性に比べて腎細胞癌リスクが50%上昇するというのです。

良性疾患により子宮摘出術を受けた184945人を追跡調査したところ、腎細胞癌の粗罹患率は、子宮摘出術を受けた女性において10万人年あたり17.4人であり対照群で13.1人であり有意差を認めたというものです。さらに腎臓癌リスクが最も高かったのは、44歳以下で子宮摘出術を受けた女性の術後10年間だったということです。
子宮摘出術の術式については、腹式子宮全摘術を受けた患で最も高く、一方、膣式子宮摘出術を受けた患者では低く、リスク上昇は有意ではなかったということです。

なぜ子宮摘出後に腎細胞癌が発生しやすいのかについては不明ですが、摘出時の外科的操作によって尿管によじれや狭窄が起きた結果により発生しやすくなるとこの論文では推定されていますが、正直、へぇー?!という感想です。


子宮摘出群では206万1556人-年の追跡で357人(0.20%)が、子宮摘出されていない群では763万1824人-年の追跡で995人(0.15%)が、それぞれ腎細胞癌と診断されていたとされています。
この論文によると子宮摘出術を受ける女性が多い米国のような国では、腎細胞癌リスクの50%上昇は公衆衛生学的に大きな影響をもたらしている可能性があるということです。
平たく言うと44歳以下では癌でもない限り開腹子宮全摘はしないほうがよい。するのであれば膣式でということになります。


10万人のうち17〜18人、つまり5000〜10000人に1人の確率ですからリスク・ベネフィットを考えるとたいしたことはないと思います。 
 
でも一応知っておくべきことかもしれません。












UAEが“できる”とは

UAEの適応になるかならないかは患者さんの希望もありますが、MRI所見がきわめて重要です。
外来患者さんの7割以上は筋腫は多発しており筋腫が一つだけというのは多くありません。
まず大きさですが6cm以下であれば粘膜下、もしくは筋層内で一部粘膜面に露出していてもsloughingになりにくので良い適応です。 例えば6cm、5cm、3cm、以下小さいものが多数あるといった場合はとても良い適応になります。 粘膜下筋腫に関しては未産婦の場合は最大筋腫核は8cmまで、経産婦の場合は10cmまでと自分なりの基準を設けています。明らかにしょう膜下筋腫、筋層内筋腫でも粘膜に露出していない場合であれば10cmを越えていても安全に出来ます。
もちろん目の前のMRI画像で筋腫であるとは100%断言できません。今までの経過、血液データを総合して子宮の腫瘍は良性の平滑筋腫だろうという上で治療を行います。例えば、ここ2-3ヶ月で急に筋腫が大きくなったとか、血液データでLDHという酵素が異常高値を示した場合は筋腫ではないかもしれないと疑います。 またMRIでの筋腫(と考えられている腫瘍)の変性が強い場合も悪性の可能性を常に考慮します。
欧米からのデータは極めて正確で、感染のため子宮全摘になる場合は0.34%とされています。
つまり1000人に3-4人は感染のために子宮全摘になるということです。私は約2000症例を経験しましたが、UAE後に感染して子宮全摘となった例はいままで確認されているもので2例あります。
また合併症として重篤になるものに肺塞栓症があります。私がUAE後の穿刺部の圧迫時間が2時間と短かく、その後はベッド上で体動を自由にさせるのは肺塞栓症を起こさないためです。輸液も十分にします。それでも今までに1例を経験しています(0.05%)。このように0コンマ数%という合併症の発生を常に想定して、起きた場合の処置も迅速に行いえて、かつUAEの適応から手技、手技後の管理と一貫して行いえて、初めてUAEが“できる”と言えるのです。

放射線被曝は過小評価してはいけない

UAEの欠点として放射線被曝があげられます。UAEによる放射線被曝は急性、慢性の放射線障害、遺伝的影響に関連するとはいえないとされています。

Patient Radiation Dose Associated with Uterine Artery Embolization

Nikolic.B,et al      Radiology : 214, 121-125 , January 2000

The estimated absorbed ovarian dose during UAE is greater than that during common fluoroscopic procedures. On the basis of the known risks of pelvic irradiation for Hodgkin disease, the dose associated with UAE is unlikely to result in acute or long-term radiation injury to the patient or to a measurable increase in the genetic risk to the patient‘s future children.

UAEは急性、慢性の放射線障害や子供への遺伝的影響に関連するとはいえない。


しかしこれには条件があります。いくら放射線障害が少ないといっても無条件に長時間の透視を行えば放射線障害は出るのです

Uterine Arterial Embolization: Factors Influencing Patient Radiation Exposure

Andrew R T, et al    Radiology : 217, 713-722. December 2000

With operator experience and careful technique, uterine arterial embolization can be performed at radiation exposures comparable to those used in routine diagnostic studies.

術者の経験や注意深い技術によりUAEは通常の診断に匹敵する放射線被曝で行いうる。


 
ここでははっきりと術者の経験と技量をのべています。つまり術者の経験や技量によってはルーチンの放射線診断に使われる被曝線量を超えてしまうということです。
 
ではどの程度の被曝線量でUAEを行えばよいのでしょうか。 私は私なりの基準を持っています。
一度に650mG(ミリグレイ)以上の線量を卵巣に当てると一時的不妊になります。要した総被曝線量の10~30%が卵巣に当たるとされているので、過小評価せずに30%が当たるとします。総被曝線量が2000mGとすればその30%は600mG。ですから2000mG以内、すなわち2G以内としています。この2Gという数値はあなどれない数値であり、機種、患者さんの体格によっては20分程度の透視時間で簡単に超えてしまいます。
 
UAEの被曝はあなどれないのです。

あけましておめでとうございます。

2012年1月は既に10例のUAEが予定されています。昨年中にのべ2000症例を突破して改めてUAEの治療効果、術後回復の速さ、患者さんの満足度の高さを再確認しています。
反面、極めて少数ですが患者さんの希望通りにいかないこともあり、UAE適応の難しさをも再確認しました。

私は10年前に学会でこう発言したことがあります。
http://www3.ocn.ne.jp/~embo/workshop.htm#ws2-3