技(わざ)は盗むものか?

いいえ、ちがいます。

よく、調理人の修行時代に『技は盗むものであって、鍋の片隅に残ったソースをなめてみて研究したものだ。』、などというエピソードがありがちです。
とかく技ともなると徒弟制度やら上下関係やらで一人前になるまで血と汗の涙ぐましい努力が語られがちです。
『技は教えてもらうものではない。師匠から盗むものだ。』
という声があることは否定しません。

幸い、私はこのような環境とは無縁で、実に合理的にUAEを含む、IVR、血管撮影技術を習得しました。
合理的に、患者さんに最小限の侵襲でもちろん短時間に手技を終了させることを学びました。
もちろんカテーテル治療を専門とする放射科医の指導もありましたが、(それが大きな比重を占めていることはもちろんです。)外科、内科、婦人科医との日頃のコンタクトが無視できないほど大きかったといえます。

たとえば動注リザーバーの植え込み術は皮膚を切開し、ポートを皮下に固定します。小さな外科手術です。切るからには出血があるのですが、どうすれば出血が少なくてすむか、どうすればポートを固定できるか、皮下の剥離をどのようにすればいいのかなどは外科医から学びました。

カテーテルには押す、引く、右に回す、左に回す、とこの組み合わせしかありません。(ガイドワイヤーも同じです。)
ガイドワイヤーは金属でできているのでカテーテルから出る瞬間は針のように突き通す力があります。どうやってガイドワイヤーを安全にカテーテルから出せばいいのでしょうか?

ガイドワイヤーをカテーテルから出さないで、ガイドワイヤーを固定したままカテーテルを引き戻せばいいのです。そうすればガイドワイヤーはカテーテルから出ますね。

こんなことは基本中の基本です。

何度挿入を試みても目的とする血管に入らないのは腕が悪いのではなくてカテーテル(もしくはガイドワイヤー)の形状が合わないのです。 人間は面白いもので入らなければ何とか入れようとして時間を浪費します。撤退することがなかなかできないものなのです。カテーテル(もしくはガイドワイヤー)の形状が合わないならいくらやっても入りませんのでカテーテルやガイドワイヤーを交換するとか形状を変えるとかしないといけません。

穿刺もそうです。 大腿動脈を針で穿刺する。ところが血管に当たらない。 おかしい?と思ってもう一度穿刺する。 やっぱり当たらない。 首をかしげる。 もう一度、、。

何度やっても血管には当たりません。 穿刺した場所には血管が走っていないからです。
穿刺する部位を変えるか穿刺の角度を変えるかしないと血管には当たりません。
採血も同じです。

最近はライブ中継といって心臓カテーテルのライブが行われています。 もちろん心臓の血管内の操作がメインだと思います。

でも私は名人といわれる術者の“穿刺”を見てみたいです。

案外“穿刺”の場面は省略されているかもしれません。

指導医は技をなす基本をしっかりと伝えなくてはいけませんね。

鍋についたソースの作り方の素材の配合は教えてあげればいいのです。