第43回日本IVR学会総会(1)

6月5日から7日まで奈良で開催された第43回日本IVR学会総会に参加してきました。本年度からいわゆるビーズと呼ばれる非吸収性球状塞栓物質が正式に認可され保険収載となったためビーズに関する話題が多く、実際にUAEに使用される塞栓物質でもあるためビーズの情報を極力得ることが参加目的の一つでした。もう一つはヨーロッパのIVR医で、多数のUAE後の妊娠、出産例を持っておりそれを論文にしているDr.Piscoの講演があり、直接UAEに関する質問をすることでした。

 6月5日は学会初日で午前中は内臓動脈瘤のセッションを聴講しました。巨大な脾動脈瘤の症例の他、腎動脈瘤の症例が議論されました。どの分野もそうですが、適応と治療戦略がもっとも大事です。今ではカテーテルやガイドワイヤーが発達していますし、塞栓物質、コイル、ステントもさまざまなものがあるので昔だったらお手上げの症例も血管内治療で治すことができます。戦略によって器具の使い分けが必要になってきますし、治療の限界、合併症、長期効果も知っていなくてはなりません。何より術者の技量が大きく関与します。

ランチョンセミナーではDCビーズを使用した肝細胞癌治療について、ワークショップは産科出血でこれは手技はUAEそのものであり治療対象が筋腫や腺筋症でなく大量出血に対してです。引き続き、一般講演ー「救急」、Dr.GoodwinによるSIRレクチャー Global Interventional Radiology、技術教育セミナー 『門脈圧亢進症』 スポンサードセッション AMPLAZER Vasculaar Plugと聴講しあっという間に夕方6時半になりました。

エンボスフィアによるUAE後の妊娠



日本では2014年2月からエンボスフィアが子宮筋腫の動脈塞栓術に保険適応となりましたが欧米ではすでに広く用いられていました。ではエンボスフィアによるUAE後の妊娠の状況はどうでしょうか。スペインからの報告がありますので紹介します。

 Pregnancy after uterine fibroid embolization: follow-up of 100 patients embolized using tris-acryl gelatin microspheres
Fertility and SterilityVolume 90, Issue 6, Pages 2356–2360, December 2008
100症例のUAE、うち57例が挙児希望。UAE後の妊娠は11症例。つまり19%の妊娠率ということになります。この論文によると40歳未満に限ると妊娠率は50%であり非常に高いということになります。早期流産の割合は27%、帝王切開率は50%。

 どういった塞栓の仕方をしているか興味があったのですが、妊娠した10例のうち8例が700-900μのサイズから塞栓していました。通常は500-700μからスタートするのですが、おそらく術者はマイルドな塞栓を考慮してやや大きめのサイズで塞栓したものと思われます。

挙児希望者にUAEは第一選択にはなりませんが、実際の臨床の現場ではそういかないことも少なくありません。 日本での状況はゼラチンスポンジでのUAEに慣れていたわけですが、新たにエンボスフィアという塞栓物質が使用できるわけで術者も選択肢の幅が広がったとpositiveに考えるべきと思います。

ジノ・フランチェスカッテイ

------若いヴィルトゥオーソは、練習している曲にあまりにも早く飽きてしまいがちである。彼らは薄れ行く興味を育て直すことはせず、その曲を弾くたびに、なにかを付け加えたり、楽譜になにか特別の意味を付与しようとすることには関心を示さない、、、常に完璧性を求め、音楽的にも、テクニックの点からもその曲の表現に工夫を加えていくべきである。またたえずフィンガリングの改善を試みていくべきである。大演奏家の多くが、たくさんのレパートリーをもっているわけではないが、彼らは何年にもわたってそのレパートリーについて考え、練習を続けているのである。メンデルスゾーンの協奏曲のように何度も演奏しているものでさえ、演奏するたびに、よりよい演奏をし、さらに優れた仕上げを試み、細部を磨き上げなければならない。----ジノ・フランチェスカッティ------

私はこの言葉が気に入っています。フランチェスカッティは1902年マルセイユ生まれのヴァイオリニストでミルスタイン同様に来日したことのない演奏家の一人ですが、その輝かしい音色、卓越した技巧で20世紀を代表する巨匠です。曲をUAEに当てはめてみましょう。UAEはカテーテルを左右の子宮動脈に選択的に挿入し塞栓物質を流し込むというきわめて単純な手技です。ある程度トレーニングを積めばそれほど困難なくできるようになります。手技のみを考えて見ます。極力フリーフローの状態で塞栓物質を流し込むことが必要とされていますが理論的にはカテーテルを十分に挿入すればするほどフリーフローから遠ざかることになります。事実どんなに愛護的なカテーテル操作を行っても塞栓終了時に子宮動脈本幹にスパスムが起きていることはしばしば経験します。細くしなやかなカテーテルを使用すれば奥まで挿入できて血管への刺激も少ないと考えますが、細くなると塞栓物質が通過しませんし十分な量の造影剤も流し込めませんので良好な造影所見を得にくくなります。またエンボスフィアは500μ以上のサイズを使用しますので少なくともカテーテル内腔は500μ以上なくてはいけません。実際には良好な子宮動脈造影が欠かせません。少なくとも良好な造影所見なしに塞栓物質を注入すべきではないのです。理由は子宮動静脈瘻、子宮動静脈奇形などA-Vシャントがあった場合、塞栓物質がすり抜けて静脈系に入り込み肺塞栓症を起こしえるからです。(A-Vシャントがなくても起こしえる。つまり骨盤内に静脈を圧迫しえる腫瘤を持った人が対象になること、またUAE後は一過性に凝固能が亢進します。子宮動静脈瘻、子宮動静脈奇形は極めてまれな疾患ですが、私は年間100症例はUAEを行っているのです。数をこなせばそういった疾患に遭遇する可能性は高くなります。)。そうすると選択的子宮動脈造影は少なくとも4F程度のカテーテルで良好な造影所見を得たのち、4Fカテーテルはなるべく深く挿入せずすぐにマイクロカテーテルを使用して十分に挿入する。ということになります。しかし、自動注入器を使用し、ハイフロー型マイクロカテーテルを使用すれば造影剤も十分量注入可能ですからこの限りではないことにもなります。一般に塞栓療法の対象は大部分が肝臓癌をはじめとする悪性腫瘍で、2度3度と治療を反復することを前提に行われます。一方UAEは良性腫瘍であり、患者さんも治療する方も極力1回の治療で済ませたいと考えます。長期的にみれば再発、再UAEもありえますが、原則1回で決めたい。1回の手技で筋腫核のすべてを完全に梗塞にする必要かつ十分な塞栓を求めて常に工夫し改善し細部にわたって磨き上げねばならないのです。フランチェスカッティの言葉にまさに共通しています。

エンボスフィアでの子宮動脈塞栓術(3)

エンボスフィアを塞栓物質としたUAEものべ30症例になりました。今週は5症例を行いました。透視時間は10分台から17分台で平均13,5分でした。エンボスフィアはゆっくりと末梢に流れていくためどうしてもエンドポイントが決めにくい。このため撮影回数が増えて透視時間も長引く傾向にあります。ゼラチンスポンジン場合はすぐに詰まりエンドポイントも決めやすい。ひいては透視時間は短縮され使用する造影剤も少量で済みます。
エンボスフィアでのUAEはいかに透視時間を短く、かつ造影剤の量を少なくするかが課題でした。当初は透視に20分程度かかっていたのが13-4分になってきました。造影剤も
以前より少量となってきました。ここまでくるのに30症例の経験が必要でした。
また塞栓前の造影所見を見ただけでおおよそどの程度の量のエンボスフィアが必要となるのかもわかってきました。そうなるとエンボスフィアを注入している間、ずっと透視を出している必要はなくなってきます。ひいては透視時間も短くなり、手技にかかる時間も短くなります。

エンボスフィアでの子宮動脈塞栓術(2)

本年2月以降にエンボスフィアを塞栓物質としたUAEを25症例行いました。UAEを行った後はその血管造影像を見直し、施術後の造影MRIを見、フィードバックすることにより塞栓のさじ加減を習得します。
短期間にある一定の症例をこなさないとどうしても習得は難しく、逆に短期間で集中的に症例数をこなすことにより、より効果的に習得できます。
25症例の内訳は透視時間は6分55秒から33分に分布、平均20分42秒。使用したエンボスフィアは1バイアルから11バイアルに分布、平均4.6バイアルでした。塞栓効果はpumping法によるゼラチンスポンジの場合と比較して差はないようです。
ただUAE後の疼痛に関してはエンボスフィアの方が少ないようです。
子宮筋腫はいわゆるcommon diseaseです。ですからその治療は「確立」されており「安定供給」されていなければいけません。

エンボスフィアでの子宮動脈塞栓術(1)

2月に入りエンボスフィアでのUAEを2症例を続けて施行しました。いずれも多発性子宮筋腫の患者さんです。

2月某日午前。術者は私。助手は東府中病院副院長の浅野先生。セルジンガー法による右大腿動脈アプローチにて毛利型カテーテルで骨盤動脈造影を施行。そのままループを形成して右子宮動脈に選択的に挿入、造影。マイクロカテーテルを併用し先端を子宮動脈水平枝から上行枝まで挿入。エンボスフィア500-700μで塞栓開始。腫瘍濃染像が消えかかる時点でエンボスフィア700-900μで塞栓。arcuate arteryが消えかかる時点で抗生剤を添加した少量のゼラチンスポンジで塞栓。子宮動脈上行枝が造影されなくなる程度で塞栓終了。おなじ操作を左子宮動脈に行い最後に骨盤動脈造影で左右の子宮動脈の閉塞を確認して手技を終了しました。エンボスフィアはゆっくりと血流にのって末梢に運ばれるのでend pointを誤らないように確認造影を何回か施行しました。このためどうしても日頃やりなれているゼラチンスポンジでのUAEより透視時間が長くなってしまいます。患者さんへの被曝を低減するために技師さんには線量を落としてもらい、パルスも最低限にしていただきました。エンボスフィアは欧米諸国をはじめとして世界70か国で施用されている塞栓物質ですが私にとっては初めての塞栓物質です。おそらく日本ではほとんどの医師がいまだ使用したことがないはずです。万全を期すために事前に米国でエンボスフィアを使用してUAEを行っている医師と国際電話で使用感をについて話し合い、当日は日本化薬の学術担当者に来院して頂きました。
おかげさまで2例共に透視時間10-20分程度で終了。術後の経過も良好で疼痛コントロールも良好です。ゼラチンスポンジのみのUAEとはどう違うかも今後見極めていきたいと思います。15年前に私はPVAでスタートしました。これでゼラチンスポンジ、エンボスフィアと塞栓物質はすべて経験したことになります。関係者各位に感謝いたします。

子宮筋腫に対する動脈塞栓術(UAE)が保険適応に

厚生労働省の通知により血管塞栓用ビーズとしてエンボスフィア、ヘパスフィアが薬事承認、保険収載されました。

エンボスフィアは欧米にて子宮筋腫に対する動脈塞栓術(UAE)に広く用いられている塞栓物質です。

その使用については、厚生労働省からの依頼により、日本IVR学会が日本医学放射線学会、日本脈管学会、日本肝臓学会、日本肝癌研究会ならびに日本産婦人科学会(エンボスフィアについてのみ)と協議の上、以下の「適正使用に係る体制等の要件」を提出し、この要件を前提として承認がなされました。


よって、その使用にあたっては、これらの要件を満たすことが前提となります。

 
     「エンボスフィアの適正使用に係る体制等の要件」
 
1)術者要件
① 100例以上の塞栓術の経験(学会あるいは所属部門長の承認を要す)     
② 企業の行う教育コースの受講
2)施設要件
① 動静脈奇形に対する治療は、動静脈奇形の治療に十分な経験を有す医師と連携して治療を行なうことが可能な施設で行なうこと。
② 子宮筋腫に対する治療は、子宮筋腫の治療に十分な経験を有す産婦人科医師と連携して治療を行なうことが可能な施設で行なうこと。
3)子宮筋腫に対する実施要件
① 子宮筋腫塞栓術実施後に、重大な有害事象(肺塞栓による心肺停止、Ashermann症候群,子宮内感染,子宮壊死,無月経,不妊など)が起こることがあるので、事前にこれらの危険性について十分に説明、同意を得たうえで産婦人科医と連携して実施すること。
② 実施後の妊娠において、重篤な合併症(流産、切迫早産、子宮破裂、産後大出血、癒着胎盤など)の報告があるため、実施後に妊娠が判明した場合は、ハイリスク妊娠分娩管理が可能な高次医療機関と連携すること。




事実上子宮筋腫の動脈塞栓術は保険適応になりました。

術者は相応の塞栓療法の経験を有すること、施設にも要件があるということは患者さんにとっても不利益を避ける意味で重要です。カテーテルができるからということだけでUAEを行ってはいけないということです。

UAEの保険適応がゴールではなく、これからがスタートなのです。